損得よりも、退職金に果たしてほしい機能で選ぼう

 退職金の役割とは、会社を中途退職する場合は次の仕事が見つかるまでの生活資金のような性格が強い一方、定年まで勤めあげた人にとってはまさに老後の資金となります。

近年になって「公的年金だけでは老後の生活を支え切れない」という議論が盛んになり、企業年金を老後生活の柱の一つにしようという機運からさまざまな制度改革が進み、今では企業年金(特にDC)の目的は「老後の資産形成」という一点に絞られつつあります。

この機能を考えたとき、その損得を論じることにどれだけの意味があるでしょうか。

一時金で受け取る = 一度に多額の資金を手にできる 年金で受け取る = 老後の一定年数、安定した収入を得ることができる

このように、まず目的が違います。さらに、お金の価値というのは時間軸で変わってきます。大切なのは、「どの時点に、なにで、あなたの生活費を賄うのか」ということです。

元々、貯金を蓄えていて資産に余裕があるなら、一時金で受け取って現役引退のご褒美に使うのもよいでしょう。リタイア後の生活費を補填したい場合は、年金で受け取るほうがよいでしょう。ただ、大半の人はその両方の事情を抱えているでしょうから、どうしても一時金と年金の組み合わせを考える必要が出てきます。

退職所得控除より重要な「リタイア後の定期収入」

一例として、私自身の「事情」をお話ししましょう。

企業年金基金に15年間在職し、その後FPとして仕事をしていますが、誠にお恥ずかしいことながら、自分自身の退職後の生活は順風満帆とは言い難い状況でした。

60歳で退職せずに継続雇用を選択することもできましたが、これまで培った知識や技能を自分で直接社会のために役立てたいという夢を追い、大胆にも独立しました。一人息子はすでに会社員になっていますが、大学の学費が50代半ばの支出の大きなウェイトを占めていたため、定年退職時にはかなりの額の教育ローンの残債がありました。そのため、退職金の半分を一時金で、残りを年金として受け取ることにしました。それが得だったからというわけではなく、そうせざるを得なかったから、と言ってもいいでしょう。

目先の損得で言えば、全額一時金で受け取れば退職所得控除の恩恵を受けられるので年金よりもお得だったかもしれませんが、老後の生活費のために年金を選びました。

実は、独立という道を選んだこともあり、わが家は一時、かなり厳しい局面を迎えました。定期収入が現役時代から大きく減ったことで、貯金はみるみるうちに減っていき、今受け取っている企業年金を全額一時金に変えて受け取るか、あるいは、持ち家の売却もやむなしか……と大いに悩む状況に。しかし、ここで一時金受取を選べば、言うまでもなく65歳以降はさらに苦しくなります。たとえ2~3年貧苦にあえいでも、5年後、10年後、20年後の定期的な収入源は“死守”すべき貴重な存在であると考え、一時金に頼らずとも済むように夫婦で派遣やパートの仕事を複数こなすなどしてグッと我慢で切り抜けました。実際に、企業年金にも持ち家にも手を付けなくて良かったと思っています。