お客さまとの長期の信頼関係が何より大切
この相談から始まる業務プロセスにおいて、最も重要になるのは「お客さまが解決したい課題は何なのか、お話を伺いながら一緒に考えること」だと平野氏は話す。「百貨店目線のライフプランニングのプロセスを構築することが、1つの目標と言えるでしょうか」。
原則として面談の初日に商品を提案することはせず、顧客の課題をチームで共有、ディスカッションした上で、具体的なソリューションを決定するという。いわばチームプレーで、それが属人的なエラーを防ぎ、サービスの標準化にもつながるわけだ。
一方で、チームの一員となる人材に求められるものも、従来の金融機関とは大きく異なってくる。「金融機関で優秀な営業成績をあげてきた方が、必ずしもふさわしいというわけではありません。営業成績が高い方ほど、『商品を売る』という姿勢が強かったりする。必要なのはスタープレーヤーではなく、チームの一員です。そのため、むしろ百貨店の職員を積極的に登用し、育成していくというのが現在の基本方針になっています」(平野氏)。
もともと百貨店の社員にはチームプレーが根付いている上、顧客の悩みを丁寧に聞くトレーニングも受けてきた。現在の相談員は8名で、そのうち4名は高島屋グループ内からの登用だという。
ただし、この人材育成の在り方にしても、相談業務を軸にした提案スタイルにしても、決して効率が良いとは言えないのも事実。しかし平野氏は、「目先の効率性を追い求めるよりも、お客さまに満足していただき、長くお付き合いすることが非常に大切」だと強調する。「経営陣ともそうした考え方は共有していますし、金融事業もあくまで百貨店の1つの機能、売り場だと捉えているからこそできることでしょう」。
百貨店を訪れる顧客の多くは、金融商品だけを求めているわけでは当然ない。百貨店の使命は顧客と長期の信頼関係を築きつつ、生活に必要なあらゆるサービスを提供すること。金融も、その1つという位置付けなのだろう。
この7月からは、タカシマヤカードを利用することで投信の購入代金がカード引き落としとなる「カード積立」もスタート。積立投資に適したファンドとして、「SBI・バンガード・S&P500インデックス・ファンド」「eMAXIS Slim 国内株式(日経平均)」「セゾン資産形成の達人ファンド」「農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね」などインデックスとアクティブをバランスよく組み合わせた8本の「タカシマヤセレクション」も用意した。
ファイナンシャルサービス事業のスタートから1カ月強。実績を問うのはまだ早過ぎるかもしれないが、相談の予約は連日入り、特に土日はほぼ予約で埋まっている状況だという。顧客の年齢層は、やはり50代以上が中心で、今後は売り場やオンラインストアが一体となった集客策なども考えながら、その層をさらに広げていきたいと平野氏は意気込む。「そのためには、社内での認知をさらに高め、私たちをうまく利用するという感覚を持ってもらうことも重要かもしれません」。
高島屋と言えば、多くの富裕層を抱える外商のイメージも強いが、ファイナンシャルカウンターの相談員が外商に同行するケースなどもすでに出てきているそう。前述の通り人材育成が課題ではあるものの、日本橋以外の店舗にもファイナンシャルカウンターを設ける計画も進行中だ。優良な顧客を数多く抱えているだけに、同社のファイナンシャルサービス事業が資産運用業界にもたらすインパクトも大きいはずで、今後も同社の取り組みに注目していきたい。