IFAの価値は、顧客の資産を増やすことだけではない

とはいえ、仕事がラクになったわけではありません。原則として転勤のないIFAは、顧客と長期で向き合うことになり、その分責任も大きくなります。

「前職では数年に一度必ずやってくる転勤・異動が、うまくサポートできなかったお客さまと離れるチャンスでもありました。しかし、転勤がないIFAはそうした『チャンス』なく関係が続くので、お子さんやお孫さんも含めたお客さまの長い人生に寄り添っていく覚悟が必要です。安易なアドバイスはとてもできませんし、重責だと感じます」。

金融商品の売買を通して、短期的・中期的に顧客の資産を増やすことが主な役割だった証券会社時代とは異なり、IFAは資産運用にとどまらない幅広い悩みや不安を長期的目線で解決することが求められます。税理士や司法書士などの専門家とチームを組んで、相続や節税、終活など顧客の人生に深く関わることに、森田さんは大きなやりがいを感じるといいます。

先のコロナショックのような金融市場の暴落に対しても、不安をフォローするだけでなく、そもそも暴落があることを前提として無理のない運用を継続してもらうことを大切にしているそうです。足元は上げ基調が続く半面、不確定要素も多い状況にありますが、「むしろお客さまの満足度を上げることと、そのためのスキルアップに集中できます。この恵まれた環境を生かして、常に成長を続けるアドバイザーでありたいです」と、森田さんは笑顔で語ってくれました。

IFAという業界はまだ発展途上にあり、担い手の待遇が大手証券会社と肩を並べることはまれです。それでも、森田さんのように自身が考える「幸せ」や中長期的なキャリアプランに向き合い、IFAに転身する人は徐々に増えているようです。

その一方で、証券会社各社でも、フロー収益だけでなくストック収益にも目線を向けるなど、ビジネスモデルに変化が表れてきています。今後、金融アドバイザーの価値基準は、儲けさせてくれる、という短期的な利益から、長期的に任せられる「安心」にシフトしていくのかもしれません。