映画ビジネスの利益を広げる二次利用収入

映画の収益源は劇場のチケットだけではありません。

パンフレットや関連グッズの販売、映像配信サービスへの提供、放送、イベント、海外販売など、公開後にもさまざまな二次利用収入が生まれます。

劇場公開が期待ほど伸びなかった作品でも、配信や商品化で投資を回収できる場合があります。

反対に、劇場で大ヒットした作品を配信、物販、イベント、海外展開へつなげられれば、1つのコンテンツから重層的に収益を得られます。

この二次利用で重要になるのが、作品やキャラクターに関するIP、すなわち知的財産権です。

東宝の成長戦略はバリューチェーンの空白を埋めること

従来の東宝は、映画館運営や配給に強みを持つ一方、企画、IP保有、アニメーション制作、配信、海外販売、商品化といった上流・周辺領域では、必ずしも十分な収益を取り込めていませんでした。

そこで現在は、映画を届けるだけでなく、企画・制作から二次利用まで関与する範囲を広げようとしています。

狙いは明確です。

バリューチェーン上の空白を埋め、作品がヒットしたときに得られる取り分を増やすことです。

配給手数料だけを得る場合と、IPを保有し、制作に出資し、配給・配信・物販まで担う場合とでは、同じ興行収入でも利益貢献が大きく異なります。

この仕組みを整えれば、ヒット依存というエンターテインメント企業の弱点を完全には消せなくても、1作品あたりの収益力を高め、回収手段を多様化できます。

ゴジラは東宝が持つ最大の強み

この戦略を考えるうえで象徴的なのが『ゴジラ』です。

東宝はゴジラのIPを保有しているため、映画の配給だけでなく、ライセンス、商品化、イベント、海外展開など幅広い領域から収益を得られます。

他社IPの配給作品よりも利益を取り込みやすく、ヒットした場合の収益インパクトは格段に大きくなります。

近年、国内外でゴジラ作品の展開が活発なのは、強い自社IPを最大限に生かす合理的な戦略といえます。

東宝にとって次の課題は、ゴジラの価値を一段と高めるとともに、ゴジラに続く有力IPを育てられるかどうかです。

ただし、世界で長期的に支持されるIPをゼロから生み出すのは容易ではありません。

ここには大きな成長余地と同時に、実行難易度の高さがあります。

アニメ制作強化で上流の利益を取り込む

東宝はアニメ分野にも力を入れています。

国内アニメは映画、テレビ、配信、ゲーム、グッズ、海外ライセンスへと展開しやすく、IPビジネスとの相性が良いからです。

一方、アニメ分野では東映アニメーションや、ソニーグループ傘下のアニプレックスなど、有力企業が先行しています。

大ヒット作でも共同配給や他社主導の制作であれば、東宝の取り分は限られます。

東宝が自社の制作能力とプロデュース力を高め、企画や権利保有の段階から関与できれば、配給会社から総合エンターテインメント企業への転換が進みます。

ただし、体制を整えることとヒット作を継続的に生み出すことは別問題です。

人材の採用・育成、制作現場の品質管理、原作の発掘、ファンとの関係づくりなど、成果が数字に表れるまでには時間がかかります。

投資家は作品数だけでなく、IP保有比率や製作委員会での立場、二次利用収入の伸びも確認する必要があります。