夫を追い詰めていた可能性を探る
「いつごろから変わったか、心当たりあったりする?」
「いつごろ……たぶん拓海が4年生になってからかな。ゴールデンウイーク明けには、今の状態だったと思う」
「そっか……。そのころ、家の外で何か変わったことはなかった?」
「そうねえ」
勝美は窓の外へ目を向けた。春先からの出来事を順にたどっているうちに、ふとあることを思い出す。
「あ、そういえば、裕樹の会社が買収されたの」
「それは、だいぶ大きな変化だね。裕樹さん、そのことについて何か言ってた?」
「『会社が変わる』『面倒なことになりそうだ』って。買収されてから上司も変わったみたいだし、仕事の進め方も何度も変えられたって言ってた。評価の仕組みまで変わったとか……」
口にしながら、勝美は眉を寄せた。
夜ごと会社の愚痴をこぼすようになったのも、酒の量が増えたのも春ごろだ。家の細かなことへ口を出すようになった時期とも重なる。
「……そうだ。全部、そのころからかも」
「それなら、裕樹さんも仕事でかなり余裕がなくなってるのかもしれないね」
「仕事のストレスのせいってこと?」
「本人に聞かなきゃわからないけどね。でも、勝美の家事や料理そのものが急に気に入らなくなった、って考えるよりは現実的じゃない?」
勝美は小さく息をのんだ。
裕樹の言動にショックを受けるたび、自分が何か見落としているのではないかと考えていた。だが、見るべきところは別にあるのかもしれない。
「ただ、仕事がしんどいからって、勝美や拓海くんに当たっていいわけじゃない」
「うん。それは私も思う」
塾を一方的に決められたときの拓海の顔が浮かんだ。
「一度、会社のことをちゃんと聞いてみようかな」
「それがいいと思う。まずは裕樹さんが何を抱えてるのか、本人の口から聞かないとね」
「うん。今まで愚痴だと思って、まともに聞いてなかったから」
自分のすべきことが見つかったからだろう、店を出るころには、かなり気が楽になっていた。
傾きかけた午後の日差しの中、勝美は駅に向かって歩き始めた。
