夫の「やったつもり」に妻が爆発

その後も同じようなことは何度も続いた。

拓哉は皿を洗う。料理もする。自分で気づいて洗濯物を取り込むこともある。以前に比べれば、確実に動いてくれていた。だからこそ、実花は言いづらかった。

拓哉が満足げに家事を終えたあとで実花はシンクを拭き、排水口の髪の毛を捨て、洗濯機のゴミ取りネットを洗う……。

実花の負担は減らなかった。拓哉が汚したシンクを拭くための布巾を手に取る実花の中で、今までとは別の苛立ちが少しずつ積もり始めていた。

その夜も、拓哉は夕食後の皿洗いを引き受けた。

「今日は俺がやるから、実花は休んでて」

「うん、お願い」

そう答えたものの、実花の気は休まらなかった。拓哉が家事をするたび、自分が後始末をしなければならないのだ。

「終わったよ」

拓哉が満足そうにリビングへ戻ってくる。

「ありがとう」

実花は儀礼的にそう返し、飲み物を取りにキッチンへ向かった。シンクの縁や調理台はびしょびしょだし、ゴミ受けを覗けば生ごみもそのままだった。

「まただ」

実花の中で、張りつめていた糸が切れた。

「拓哉、来て」

「ん?」

「これで、やったつもりなの?」

自分でも思った以上に低い声が出た。拓哉が驚いた顔でキッチンへ来る。

「え? 皿は全部洗ったけど」

「皿は、ね」

「どういうこと? 約束した通り、俺もちゃんと家事やってるだろ。なんで怒ってるの?」

その言葉に、実花の苛立ちはさらに膨らんだ。

「拓哉の言う、ちゃんとって何? シンクはこんなに濡れてるし、生ごみも残ってるじゃない」

拓哉は黙った。実花は濡れたシンクを指さした。

「いつもあなたが皿を洗ったあと、私はここを拭いてる。料理したあとはコンロを掃除してるし、ゴミ受けも毎回私が捨ててる」

「……そうなの?」

「そうだよ。あなたが『やったよ』って戻ってきたあとに、毎回私が仕上げてるの」

言いながら、急にどっと疲れが押し寄せた。

「もういいや」

「え?」

「私1人でやる。そのほうが早いから」