夫の言葉に縛られた妻

翌日の昼前、芽以は仕事部屋の時計を見て、重い腰を上げてキッチンへ向かった。冷凍うどんに野菜と豚肉を加え、焼きうどんを作った。フライパンを振るたび、昨夜の「母親失格」という言葉が頭に浮かんだ。

「できたよ」

颯太は食卓に来るなり、皿を見て首を傾げた。

「今日は出前じゃないの?」

「うん。しばらくは頼まないよ」

「そっか。あのオムライス、おいしかったのにな」

悪気がないことは分かっていた。昨夜の口論を颯太は知らない。

芽以は返事をせず、自分の分を口に運んだ。数口食べた颯太は、「お店のがよかったな」と呟いた。

子どもの素直な感想に腹を立てるのは大人げない。そう言い聞かせ、芽以は食後の皿とフライパンを洗い、慌ただしくパートへ向かった。

翌日はチャーハン、その次は焼きそばを作った。颯太は椅子に座る前から口を尖らせた。

「えー、また? 出前のほうがいいんだけど」

「文句言わないの。出前は取らないって言ったでしょ」

「だって、お母さんの料理美味しくないんだもん」

その瞬間、張り詰めていたものが切れた。

「そんなに文句があるなら、自分でやりなさい!」

芽以の剣幕に颯太は目を見開き、黙り込んだ。

「……なんか買っておくから、これからは自分で用意して。お母さんはもう作らないから」

その日のパート帰り、芽以は惣菜パンと冷凍食品をいつもより多めにかごへ入れて帰路についた。

●夏休みの昼食に毎日出前を利用していた芽以は、夫・聡から「母親失格」と責められ、再び料理を始める。しかし、息子・颯太からも味への不満をぶつけられ、ついに「自分でやりなさい」と昼食作りの放棄を宣言する…… 後編【夏休みの出前を「無責任」と断罪した夫 VS 怒り任せに昼食作りをやめた妻…夫婦の衝突の結末は?】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。