真の顧客本位を目指す

こうした流れはやがて金融庁による監督指針の強化へとつながっていく。従来のように問題が起きてから対処する事後処分型の姿勢から、対話重視へと大きく舵が切られたのだ。背景には多くの運用会社が類似商品を抱え込み、大半のファンドが実質赤字に陥っていたため、目先で資金を集める顧客誘引力の強いファンドの設定に迫られる運用の現場があった。販売の現場ではリーマン・ショック後の顧客離れを補うため目先の分配金を重視し、複雑で手数料の高い商品を採用し、多売する傾向に拍車をかけていた。さらに投資家もリスクを理解せずに高分配投信を購入する。そんな悪循環に陥っていた。こうした運用・販売・顧客の三者が抱える課題を一掃するため、金融庁は監督指針の強化、真の顧客本位の市場を目指した販売インフラの整備へと本格的に動き出す。

この動きは一過性のものではなく、その志は最近まで受け継がれていた。前述した毎月決算型投信を例にデータを見てみたい。2013年末時点の毎月決算型投信の本数は約1,400本と、全体4,400本のうち31%を占めている。

純資産総額にいたっては全体の55.4兆円のうち36.9兆円と実に67%も占めていた(いずれも追加型株式投信ETFを除く、以下同)。それが2026年3月末には、本数では15%、純資産でも13%に縮小している。金額は増えているが、全体に占める割合は大幅に低下した。この変化は本来のあるべき姿――投資家本位の市場へと健全化が進んでいることを表している。しかし、最近、また資産形成層にまで毎月決算型を推奨する金融機関が出てきている。手綱を緩めれば、あっという間に逆戻りする可能性を示唆していると、島田氏は指摘する。

 
出所:モーニングスター・ジャパン
 

超低金利時代に突入し、投資家自らが資産を増やす必要性も生じていた。銀行や郵便局による投信の窓口販売開始や確定拠出年金(DC)、NISAなど制度拡充が進む中、金融庁は国民が安心して資産運用に取り組める環境整備に使命感を持って臨んでいた。しかし「投資は危険」という根強い意識は容易には拭えず、投資の本来のあり方や必要性を正しく認識してもらうことが急務だった。2016年、金融審議会「市場ワーキング・グループ」の一員に加わった島田氏は多くの人に安心して資産形成に臨んでもらえる環境を、規制・業界・消費者が同じ方向を向いて整える必要があると考えて参加した。積み重ねた議論は、国民に現実を知ってほしいという問題意識のもとで取りまとめられた。しかしその報告書は図らずも、のちに「老後2000万円問題」として社会に大きな波紋を広げることにつながっていく。

 

モーニングスター・ジャパン
「投資信託事情(JITRI)」チーフ・エディター
島田知保(しまだ・ちほ)氏

国際基督教大学卒。食品会社、宇宙科学研究所(現JAXA-ISAS)、衆議院議員秘書を経て1995年より投資信託の専門誌「投資信託事情」(1959年発刊、2024年4月号にて休刊)発行人・編集長。2008年、事業譲渡によりイボットソン・アソシエイツ・ジャパンに移籍。2024年5月イボットソン会社分割によりモーニングスター・ジャパンにて活動開始。

プロ向け、一般向けを問わず、1990年代から一貫して長期・積み立て・分散投資やESG・社会的責任投資をテーマに活動。個人投資家の交流会「コツコツ投資家がコツコツ集まるタベ(東京)」共同幹事、「個人投資家が選ぶ!(旧投信ブロガーが選ぶ!)Fund of the Year」運営委員など、投資リテラシー向上のために個人投資家に向けた任意の活動も行っている。

2012年金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」
2017年同「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」
2016年より同「市場ワーキング・グループ」(いわゆる「老後2000万円問題」報告書)委員
2022年より同「顧客本位タスクフォース」メンバー

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本連載は、投資信託専門誌『投資信託事情』(1958年創刊、2024年休刊)の発行人・編集長を務めた島田知保氏への取材をもとに構成しました。島田氏はモーニングスター・ジャパンに在籍、金融審議会の各ワーキング・グループへの参加など、制度設計にも深く関わってきました。現在はwebサイト『モーニングスター・ジャパン』コンテンツ編集長として活躍しています。