新NISAの浸透とともに、投資家ならびに金融業界にとって資産形成における確かな指針が問われている。多様な情報があふれる今、その答えを見つけるヒントはどこにあるのか。「本当に良いファンドとは?」——日本初の投資信託専門誌『投資信託事情』の発行人として約30年にわたり業界の光と影を見つめ続けてきた島田知保氏に聞く短期連載の第3回は「複雑化する投資信託と顧客本位への転換」をテーマにひも解いていく。
毎月分配型からさらに複雑な商品へ
リーマン・ショック後、個人投資家は損失を取り戻そうと、より高い分配金を求めるようになった。これを受けて業界が相次いで投入したのが「通貨選択型投信」だった。
仕組みは複雑だ。原資産は当初の先進国債券からハイイールド債、新興国債券、さらには株式やREIT(不動産投資信託)へと拡大していった。加えてこの商品の特徴は「どの通貨で運用するか」を選択できる点にあった。特定の高金利通貨のコースを選択し、金利と為替差益を上乗せして「狙う」構造である。それ以前は特定通貨といってもオーストラリアドル建てが主流を占めていたが、通貨選択型ではさらなる高金利通貨を求める動きの中でブラジルレアルが台頭。2010年代前半にかけて純資産は急拡大していった。
グラフからはブラジルレアル建て通貨選択型ファンドの純資産残高が2010年から急速に緑色を染めながら積み上がっていく様子が見てとれる。当時、日本中のシニアがブラジルレアル建てファンドを保有していたと言っても誇張ではない。島田氏も母親の取引明細を実家で思いがけず目にして驚いたという。
「米ドルもユーロもなく、あるのはブラジルレアルと豪ドルだけ。しかも8割がブラジルレアル。日本中のシニアがこうなのだと実感しました」(島田氏、以下同)。しかも国内投信よりも手数料が高い外国籍投信だった。これが全国規模で起きているのだろうと思ったら本当に恐ろしくなった、と当時を振り返る。

