「一度直接文句を言いに行ってよ」

「なんとかって、俺に何をしろと? 隣はちゃんと許可を取って民泊を始めたみたいだし、いまさらできことはないよ」

「だからって、このまま我慢しろっていうわけ?」

晴子は腕組みをして洋之をにらんでいる。相当機嫌が悪いらしく、ちっ、と舌打ちをする音すら聞こえた。

「一度直接文句を言いに行ってよ」

「俺が?」

洋之はわざとらしく大きな声で驚いてみせた。晴子が自分にそれを期待しているのはわかっていた。ただ、洋之はやりたくなかった。自分が交渉の矢面に立つのは面倒だし、苦手だったからだ。

「嫌だよ。お隣さん、ちょっと怖そうな人だし……」

「けど、ずっとこのままじゃ困るでしょ。そんなきつい言い方しなければいいし」

そう言いながら、晴子はやはり洋之のほうをにらんでいる。引き受けなければきっと怒り始めるだろう。そう思った洋之は覚悟を決めた。

「わかった。一回行ってみるよ」

洋之ははあ~と長い溜息をついた。

民泊オーナーは50代後半くらいの男性

隣の家は15年ほど前に新築された、ガレージ付きの3階建てだった。壁はクリーム色に塗装されているが、ところどころ水垢で黒ずんでいるところも目立つ。

住んでいるのは佐藤孝夫という50代後半くらいの男性。特に付き合いはないが、近所なので一応顔見知りではあった。ただ、この一戸建ては民泊にして、自分は別の場所に持っているマンションに住んでいるらしい。

それでも、掃除とか買い物のために戻ってくるのか、たまに1階の窓から灯りが漏れていることがあり、佐藤の姿も見かける。

晴子と口論した翌日がちょうど土曜日だった。土日も仕事の晴子が出勤したあと、洋之は昼過ぎから隣の様子をちょくちょく見に行き、17時ぐらいになってようやく1階の灯りがついているのを発見した。

佐藤が戻ってきたのだと思い、洋之は勇気を出して隣の家のチャイムを鳴らした。