<前編のあらすじ>

休日でも取引先対応を優先し、娘・里奈の試合の応援すら後回しにする仕事一筋の和司は、家族のために働くことこそが自分の役目であり、最優先事項だと信じて疑わなかった。

そんな和司のもとに中途入社の部下・定岡がつく。定岡は定時退社をするタイプで、仕事を人生の一要素と割り切っていた。和司はその姿勢に強い違和感を抱いていた。

しかし、定岡が取引先からの依頼を自己判断で後回しにし、報告も怠っていたことが発覚する。和司は厳しく注意するが、定岡は「仕事だけをして生きていたいわけじゃない」と真っ向から反論。両者の話し合いは、価値観の違いを埋められないまま平行線で終わる。

●前編【「社会人としての責任を果たせ」部下を追い詰めた仕事中毒の昭和上司を襲ったまさかの報い

和司を襲った予想外の展開

会議室での一件から数日が経った。それからも定岡は普通に仕事をしていたのだが、ある朝、営業部のチャットに定岡から体調不良で休むという連絡が入った。これで2日連続だ。風邪が長引いているのだろう。和司はそう思って仕事を続けていた。

しかし昼休憩を終えた時刻に事態が変わった。和司のデスクの内線が鳴り、取ると相手は人事部だった。

「高浜課長、少しお時間よろしいでしょうか。確認したいことがあります」

 

人事課の会議室に向かうと、人事課長の村瀬が座って待っていた。和司よりも2つ後輩で基本的には穏やかな性格の人だった。しかし会議室での村瀬はこわばった顔をしていて決していい話ということではないのが伝わってきた。

「お忙しいところすいません。ちょっとお話をしたいことがあったんです」

「……何の件でしょうか?」

「定岡さんが2日連続で欠勤をしている件で確認をさせてください」

「体調不良というのは違うんですか……?」

「本人からはそう聞いています。ただその休む以前に高浜課長が定岡さんに強く言われたという話を耳にしたんです」

和司は思わず聞き返した。

「強く言われた?」

「会議室で2人きりで叱責を受けたという話でした」

和司は焦りを出さないように答えた。

「それは事実です。定岡が自己判断で仕事を後回しにしたことがありましたので、そのことを注意しました。ですが声を荒げたりとかはありません」

「定岡さん本人がハラスメントを訴えているわけではありません。ただその考えが甘いや社会人として責任を果たせという言葉が聞こえたという報告がありました」

「いやいや、ちょっと待ってくださいよ」

「高浜課長に指導以上の目的がないことは分かっています。ただ、以前から休日対応や残業について、少し強めの言い方をされることがある、という声も上がっておりまして……。もちろんすべてが問題だと決めつけているわけではありません。ただ会社としては一度きちんと確認する必要がありますから」

和司は何も言えなかった。思い当たる節があったからだ。だが部下を追い詰めるつもりで発した言葉などひとつもなかった。

「念のため定岡さんが復帰をして事実確認が終わるまでは自宅でできる業務に切り替えてください。取引先への訪問や部下への直接指示はいったん控えていただきたいです」

村瀬の言葉に耳を疑った。

「……え?」

「申し訳ありませんが、よろしくお願いします」

可能な限りの在宅勤務に切り替えろと言われたが、和司にとっては自宅謹慎を命じられたのと同じだった。

「……わかりました」

注意したことが間違ってるとは思わなかった。しかし和司は人事の判断を受け入れるしかできなかった。