携帯の音で和司は目を覚ました。日曜日は仕事が休みなのでアラームは設定していない。和司が携帯を見ると、長年の付き合いがある取引先の担当者からの電話だった。その瞬間に目がさえた。

「はい、高浜です」

「お休みのところ申し訳ありません。先日納品していただいたスキャナーなんですけど、スキャンした書類を社内サーバーに送れなくなってしまいまして……。月曜の朝から使う予定なのでできれば今日中に見ていただけないかと思いまして」

和司は業務用設備や備品を販売する会社で働いていた。本来であれば休日の問い合わせは緊急窓口を通すことになっている。だが和司は昔から付き合いの長い取引先には自分の携帯を教えている。「何かあれば連絡してください」と伝えていたし、実際に対応もしてきた。そうやって信頼を積み上げてきたという自負があった。

和司の仕事観と家族

「わかりました。私が直接確認します。これから向かいますので少しお待ちください」

そう言って電話を切った。

重たい体をゆっくりと起こした。22歳で今の会社に入社をしてから20年以上、脇目も振らずに仕事をし続けていた。

休日出勤だって当たり前のようにやっていた。体力的にキツくなっているが、弱音を吐いている場合ではない。

和司は寝間着のままリビングに向かった。キッチンでは妻の広美が朝食を作っていた。

「おはよう。休みだからまだ寝てていいのに」

「いや、今から仕事に行ってくる。取引先でトラブルが起きたらしい。今すぐに着替えるから簡単に朝飯だけ出してくれるか?」

和司の報告を聞いた広美は感情を殺したような顔になった。

「……今日は里奈の応援に行くって約束してたはずよ?」

中学2年生の里奈はバスケ部に所属している。1年生のときは部活が大変で行きたくないとよく言っていたが、2年生になってからは真面目に休まず行ってるようで、今日は試合の応援に行くと約束していた。

「悪いな。1人で行ってくれ」

そう言い残すと和司は着替えるために寝室に戻った。リビングを出る前に広美と目が合ったが、その目はとても冷たかった。家族のために仕事をしているのだが、広美は理解してくれていないようだった。

それでも和司は家族のためには仕事を優先するのが一番正しいと思っている。