和司が手放してきたもの
他にも里奈や広美は世間話をしているが、どの話題も和司がまったく知らないことばかりで自分が家庭内で取り残されていることを思い知った。2人は和司にお構いなしで部活について会話をし続けていた。これが2人の日常なのだろうと感じた。
「……その試合、俺も見に行っていいのか?」
自分でも驚くほどぎこちない声だった。里奈は箸を止めて和司を見た。
「え? お父さんが?」
「……ああ」
里奈は少し驚いたような顔をしていた。
「でも試合の会場、遠いよ?」
「車があるから何とかなるよ」
「別にいいけど。どうせ仕事じゃないの?」
里奈の言葉に胸を突かれたような気がした。里奈がそう思うのは不思議ではない。そう思われるだけのことをしてきた……あるいはしてこなかったのだ。
「その日は入れないようにするよ」
「……じゃあ来れば」
素っ気なく答えると里奈はハンバーグを口に運んだ。広美は何も言わなかったが、少しだけ表情を緩めていた。
これまで仕事ばかりで一緒にご飯を食べる時間もあまり持てていなかった。その分だけ和司はこういう時間を自ら手放してきたのだろう。家族を養うために仕事を頑張ってきたし、それを間違っていたとは思わない。
ただ家族の時間を取ることや娘の成長を見届けることも同じくらい大事なことなのではないかと感じ始めていた。
――仕事は人生を豊かにする一要素でしかないと定岡が言っていたことを思い出す。会議室で聞いたときと今では和司の聞こえ方は違っているような気がした。
