岡本洋之(40)は妻・晴子との間に子供が2人、4人家族で東京・渋谷区の一戸建てに住んでいる。渋谷区はかなり地価が高い地域だが、洋之自身の収入は年650万くらいで、妻・晴子も百貨店で働いているが、とはいえ、特別高収入な世帯ではなかった。

なのに渋谷区の一戸建てに住めているのは、洋之の実家が資産家だからだった。今住んでいる家は、両親の資金援助のおかげで建てたもの。築年数は20年ほどで、住み心地は申し分ない。間取りは4LDKで、2人の子どもにも部屋をあてがうことができる。

仕事も順調で、何不自由ない暮らしを送っていたはずだったが、岡本洋之にはこのところちょっとした悩みがあった。

「もう、本当に限界……」

「もう、本当に限界……」

妻の岡本晴子がそう吐き捨てるように言い、ショートボブの髪を搔きむしった。

その様子を見ていた岡本洋之はうんざりしていた。妻・晴子が不満に思う気持ちはわかる。だが、この振る舞いにはがまんがならなかった。問題に対して何もしない洋之への当てつけで、わざと頭を搔きむしっているように見えたからだ。

「そうだね。俺もそろそろ限界に近いよ」

洋之の不満の8割がたは、自分に対してストレートに不満をぶつけてくる妻・晴子に対するものだったが、そんな気持ちを詳細に説明するつもりはなかった。余計に話がこじれる未来が目に見えていたからだった。

「民泊だかなんだか知らないけど、うちの前にゴミを捨てられるのは本当に嫌なの」

晴子はそう言って、テーブルをばしんと叩いた。

「深夜に出入りされるのもね」洋之がつけたした。

「スーツケースをゴロゴロ引っ張っていく音で何度目が覚めたかわからないし」

「分かってるんならなんとかしてよ」晴子が洋之をにらんだ。