差し出された優しさの重み
苦しいのは、自分だけではなかったのだ。それなのに修吾は、どこまでも卑屈になり、差し出された優しさまでも疑ってしまった。
「沙織、瑠璃。本当に悪かった。せっかく作ってくれた食事なのに、無駄遣いだって決めつけて……」
瑠璃の目が少し伏せられる。その仕草だけで、胸が詰まった。
「2人の気持ちを、台無しにしてしまった」
しばらく続いた沈黙を破ったのは瑠璃だった。
「今日、うまくいかなかったの?」
瑠璃が小さく尋ねる。修吾は少し迷ってから、うなずいた。沙織は察したように、そっと息をついた。
「そっか。大変だったんだね。でも、だからって何を言ってもいいわけじゃないよ。瑠璃は、あなたのために用意したんだからね」
「分かってる」
修吾が視線をやると、瑠璃は困ったように眉を下げた。
「謝ってくれたから、もういい」
「あまり1人で抱え込まないで。苦しいなら、苦しいって言って。家族なんだから」
修吾は言葉に詰まりながら小さく何度もうなずいた。
「ああ……これからは、ちゃんと相談する」
ややあって沙織が「冷める前に食べよう」と言い、ようやく修吾たちは夕食を囲んだ。箸を取って一口食べると、鶏むね肉は濃いめのたれが絡み、ご飯によく合った。
「これ、うまいな」
「でしょ。タレが美味しんだよ、タレが」
そう言って得意げに笑う瑠璃を見て、修吾は久しぶりに息をつけた気がした。
食後、修吾は空いた皿を重ね、キッチンへ運んだ。右足に鈍い痛みはあったが、家具に手を添えれば動ける。片付けを終えてリビングに戻ると、早速スマホを開いた。清掃補助の求人を保存し、続けて職業訓練の案内を検索する。
「お父さん、お茶淹れたよ。ちょっとゆっくりしたら?」
「ああ、ありがとう」
「私が持ってく」
お盆を運ぶ瑠璃を見守りながら、沙織がやや遅れてリビングにやってくる。テーブルを囲む家族3人の間には、温かい湯気がゆらゆらと立ちのぼっていた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
