<前編のあらすじ>

47歳の修吾は、2年前に階段から転落して右足の股関節を骨折。後遺症が残り、運送会社の係長職を退職せざるを得なくなった。以来、妻・沙織のパート収入と貯蓄の切り崩しで生活を続けている。

修吾は毎晩スマホで求人サイトを眺めるが、年齢や身体の制約から条件に合う仕事は見つからない。プライドを捨てきれずに仕事を選ぶ自分に嫌気が差しつつも、一方で娘の瑠璃や沙織は家計の苦しさを受け入れ、明るく振る舞っていた。

リフォーム用品店の面接に臨んだ修吾は、面接官からは「その歳で資格もない、足も悪い」「うちで何ができるんです?」と容赦なく突き放された。形だけの面接を終え、修吾は「自分にはもう何の価値もないのか」と追い詰められていた。

●前編【「うちで何ができるんです?」資格もない、足も悪い…47歳元係長が面接官に突きつけられた"無価値"の烙印

修吾を待っていた食卓

玄関の鍵を開けた瞬間、修吾はいつもと違う匂いに気づいた。甘辛い醤油だれの匂いと、焼いた肉の香ばしさが廊下まで届いている。右足の痛みをかばいながら靴を脱ぐと、台所のほうから瑠璃たちの声がした。

「お父さん、帰ってきた」

「おかえり。ちょうどよかった」

修吾は返事をしようとして、うまく声が出なかった。面接官の薄笑いが、まだ耳の奥に残っている。リビングに入ると、食卓には皿がいくつも並んでいた。大皿に盛られた照り焼き風のおかず、彩りのいいサラダ、具だくさんのスープ。いつもの夕食とは明らかに違っていた。

「今日はお疲れさま。頑張った分、ちゃんと食べて」

沙織がそう言った瞬間、修吾の中で何かが弾けた。

何が頑張った、だ。

あんなふうに笑われて、何も言い返せずに帰ってきた自分に、なぜこんな食卓を用意するのか。

「何だよ、これ」

自分でも意外なほど低い声が出た。

「こんなにぞろぞろ並べて、何のつもりだ」

「お父さん」と、瑠璃が小さく呼んだ。しかしその声を聞いても、止まらなかった。

「家計が苦しいの、分かってるだろ。だからお前だって、もやしとか豆腐でやりくりしてたじゃないか。なのに急にこんな無駄遣いして……俺への当てつけか」

「違うよ。そんなんじゃない。ちゃんと家計のことも考えて作ってるから大丈夫だよ」

「今さら見栄なんか張らなくていいよ。みっともない」

言った瞬間、修吾は気づいた。いつまでも過去の役職に固執し、見栄を捨てられないのは、自分のほうだ。ふと見ると瑠璃は箸を握ったまま、唇をぎゅっと結んでいる。普段なら努めて場を明るくしようとする娘が、今は何も言わない。その沈黙が、修吾の心をさらに乱した。