豪華に見えた食卓の真実

「俺を励ますつもりなら、やめてくれ」

そう言うと、瑠璃は弾かれたように顔を上げた。母親譲りの大きな瞳が揺れている。

「今日は父の日だよ」

一瞬、修吾は息ができなくなった。周りの音が遠のき、何も聞こえない。

「父の日……?」

あらためて食卓を見直すと、照り焼きに見えた大皿の肉は、薄く切った鶏むね肉だった。

たれを濃いめに絡め、刻んだねぎを散らして、量があるように見せている。よく見ると、サラダやスープに使われている食材自体は、いつもと変わらない。豪勢に見えた食卓は、決して無駄遣いではなく、沙織と瑠璃が、安い材料を工夫して見栄え好く並べたものだった。

「これ、瑠璃が作ったのか」

ようやく出た声は、ひどくかすれていた。瑠璃はまだ唇を震わせていたが、やがて小さくうなずいた。

「うん、全部じゃないけど、お母さんに教えてもらって作ったの」

修吾は返す言葉を失った。まだ中学生の娘が家計が苦しいことを承知のうえで、それでも食卓を明るくしようとしてくれていたのだ。

瑠璃は少し迷ってから続けた。

「あのね、お金そんなに使ってないよ。お母さんと買い物行って、安いの選んだ。だから、無駄遣いじゃない」

その言葉が、修吾の胸に刺さった。面接で自尊心を傷つけられた。だからといって、家に帰ってから家族にあたっていい理由にはならない。

「もちろん、当てつけで作ったわけでもないからね」

沙織が静かに言った。

「面接がどうだったかは、もちろん気になるよ。でも、それ以前に、今日はあなたに喜んでほしかったからだよ。ねえ、瑠璃?」

「うん、まあ……父の日くらいはね」

少し照れたように視線を逸らす瑠璃に、修吾は思わず拳を握った。足を悪くしてから、ずっと自分ばかりが被害者のような顔をしていた気がする。仕事も、収入も、父親としての威厳も、何もかもなくしたと思い込んでいた。だが、沙織は毎日朝からパートに出かけ、瑠璃は家庭の変化に気づきながらも明るく振る舞っていた。