値踏みされる47歳の履歴書

日曜の午後、修吾は電車に乗って隣町まで行き、やや年季の入ったオフィスビルに入った。

家の近所で営業しているリフォーム用品店のスタッフ求人に申し込んだところ、本社で面接を受けられることになったのだ。

面接会場は、2階の奥にあった。階段を上るたびに右足が重くなり、手すりを握る指に力が入る。

沙織にも、あえて期待させるようなことは言わなかった。しかし、何かひとつでも報告できる結果を持って帰りたい。

「失礼いたします」

小さな会議室に通されると、机の向こうに座った男が指に唾をつけてから履歴書を広げた。年齢は修吾より少し若いくらいだろう。その目は最初から修吾を値踏みするように光っていた。

「えーっと、橋本さんは……あー、47歳ですか」

「はい」

「資格は、運転免許だけ?」

返事をしながら修吾は膝の上で手を固く握った。

「ええ……大型まで運転できます。それに、2年前まで運送会社で中間管理職をしていました。現場の安全確認や新人の指導も……」

「はいはい、でもそれは資格ではありませんから」

男は焦れたように途中で遮った。まるで時間が惜しいとでも言いたげな態度に、修吾は愕然とした。

「前職は運送業。つまり体力仕事が中心ですよね。でも、今は足が悪いからできない、と」

「長時間の歩行や重い物は難しいですが、軽作業や在庫確認ならできます」

「軽作業って言ってもねえ」

ついに男は履歴書の職歴欄を指でたたいた。

「今は、知り合いの倉庫を単発で手伝っているという話ですが……正直、それを職歴とは言いにくいですよ」

かっと頬が熱くなる。だが、ここで声を荒らげれば終わりだ。あくまでも雇ってもらう側なのだと自分に言い聞かせ、修吾は引きつる口角を緩めようと必死になった。

「その歳で資格もない。足も悪い。現場経験はあっても、今は肝心の現場に出られない。橋本さん、うちで何ができるんです?」

「それは……」

「若い人なら覚えも早いし、多少無理も利きますからね。まあ、うちも誰でもいいわけじゃないんです」

修吾は強く奥歯を噛んだ。腹は立っていたが、それ以上に悔しかった。男に言われたセリフは、修吾自身が毎晩考えていることと同じだったからだ。

「結果は、後日ご連絡します」

形式的な言葉だと分かり切っていたが、修吾は立ち上がり、痛む足に力を入れて頭を下げた。

会議室を出ると、廊下の蛍光灯が白く光っていた。階段を下りるたび、右足が脈打つように痛む。

「自分には、もう何の価値もないのか」

そう思った瞬間、修吾は手すりを握る力を強めた。今崩れ落ちてしまえば、二度と立ち上がれそうになかった。

●足の後遺症で退職し、妻のパート収入に頼る日々を送る修吾。再就職の面接では「うちで何ができるんです?」と突き放され、自尊心を打ち砕かれてしまうのだった…… 後編【「みっともない」妻の手料理を罵倒した47歳無収入夫…中学生の娘が放った一言に走った衝撃】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。