奈落の底で、夫が放った信じられない一言

その夜、帰宅した夫に通帳を突きつけた。

「これ、何に使ったの!? 1500万円よ!? 私たちの老後はどうなるの!?」

狂ったように怒鳴る私に対し、夫は最初、気まずそうに目をそらしていた。しかし、私が「警察に言う」と口にした瞬間、夫の顔が般若のように豹変した。

「うるさい! 俺の退職金だ、俺がどう使おうと勝手だろ! お前はいつもそうだ、俺のやることにケチばかりつけて、東京でも俺をATM扱いしやがって!」

夫の口から飛び出したのは、35年間の結婚生活を全否定するような、呪詛の言葉だった。

「お前みたいな、田舎に馴染もうともしない役立たず、もうウンザリだ。嫌なら東京へ一人で帰れ!」

逆ギレして部屋を飛び出していった夫の背中を見ながら、私は崩れ落ちた。外はしんしんと雪が降り始めている。残されたのは、極寒の古民家と、底をつきかけた口座、そして、完全に壊れてしまった夫婦の絆。

私は、このままこの雪に埋もれて消えてしまいたい衝動に駆られていた。

●夫婦の大切な老後資金を無断で使い込んだ挙句、妻を罵倒した夫。先が見えない不安と孤独に震える妻が下した「ある決断」とは――。後編【「カッコいいところを見せたかった」老後資金を失い孤立した60代夫婦…離婚調停寸前で夫が流した「最初で最後の涙」】で詳説します。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。