再び歩き出す2人の暮らし

夕方、三花は駅前の店で牛乳と豆腐を買い、細い道を歩いて帰った。空はまだ少し明るく、住宅街の窓には早めの灯りがつき始めている。

外で働き始めてから、1カ月ほどが過ぎていた。

新しい職場は事務補助の仕事が中心で、忙しい日もあるが、前の会社のような張りつめた空気はない。決まった時間に家を出て、決まった時間に仕事を終え、帰りにスーパーへ寄って必要なものを買う。そんな当たり前の営みが、三花の頭の中をクリアにしてくれた。

「ただいま」

玄関を開けると、間もなくスリッパの足音が聞こえた。

「おかえり。荷物、もらうよ」

「大丈夫。そんなに重くないから」

「でも持つよ」

そう言って買い物袋を受け取る侑大。

思いの丈を伝えてからというもの、彼は以前より慎重になった。三花に気を遣っているのだろう。そのぎこちない優しさを、三花は密かに好ましく思っている。

「今日はどうだった?」

台所で買ってきたものを冷蔵庫にしまいながら、三花は背中越しに声をかけた。

「打ち合わせ一件と、修正対応。まあ、いつも通りかな。三花は?」

「月末近いから少しばたばたした。でも、帰る時間が読めるのは楽」

「そっか」

夕食のあと、侑大が食器を流しまで運びながら言った。

「明日、少し早く終われそうなんだけどさ」

「うん」

「どこかで外食しない?」

洗い物をしていた三花は思わず水を止めて振り向いた。

「急にどうしたの」

「あ、いや、たまにはそういうのもいいかなって」

明らかに照れている侑大に、三花は小さく笑った。

「そうだね。どこ行こっか」

「あの新しくできたフレンチは? ちょっと遠いけど」

「ありだね。平日だし空いてるといいな」

三花がうなずくと、侑大はほっとした表情で隣に立ち、皿を拭き始める。窓の外はすっかり暗くなり、街の明かりだけが静かに瞬いていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。