夫婦の向き合い直し

夜、夕食の片づけを終えても、三花はすぐには切り出せずにいた。

そわそわと気分が落ち着かない。佳織に言われた言葉を思い返しながら、ダイニングテーブルでノートパソコンを開こうとする侑大を見る。今ここで話さなければ、またいつものように仕事が始まってしまう。

「ねえ、少し話したい」

侑大が手を止め、顔を上げる。

「さっきの話?」

「ううん。仕事のことじゃなくて、私たちのこと」

そう言うと、侑大は端末から手を離した。三花は向かいに座り、膝の上で指を組む。緊張で喉が詰まりそうだったが、それでも今日は言わなければならなかった。

「前に私、外で働きたいって言ったでしょ」

「うん。急に言い出すからびっくりしたよ」

「急に思いついたわけじゃないの。ずっと考えてた。家以外に居場所がほしいって」

侑大は黙って三花を見る。三花は大きく息を吸い、言葉を選ぶように続けた。

「侑大の指摘が間違ってないのは分かってる。実際私が覚えきれてないことも多いし、確認が足りないこともある」

「だったら」

「でも、それでも苦しいの」

遮るように言ってしまってから、三花は自分でも少し驚いた。しかし、ここで止まったら、もう最後まで伝えられない気がした。

「家にいると、四六時中仕事の評価をされてる気がする。何か1つ間違えるたびに、また努力足りない、無能だって思われるんじゃないかって考えて、休んでいても落ち着かないの」

「俺は、そんなつもりじゃ」

「うん、分かってる。わざとじゃないってことも。でも、私はずっとしんどかった」

自然と声が震えてしまう。だが、泣きたくはなかった。

「仕事って、2人で幸せに暮らすためのものだったはずでしょ。でも今は、その仕事のせいで家の中まで苦しくなってる。だから私は、短い時間でもいいから外で働いて、メリハリをつけたいの」

侑大はすぐには答えなかった。

開きかけたパソコンを前に、視線をテーブルに落としたまま黙っている。その沈黙の長さに、三花は言い過ぎたのではないかと不安になる。

「……俺、三花に支えてもらってる立場だったのにな」

やがて侑大が低い声で言い、三花は顔を上げた。

「三花にとっては初めての仕事なのに、できて当たり前みたいに思ってたのかもしれない。気づいたら、三花のこと部下みたいに扱ってた……そりゃ居心地が悪くなって当然だよな」

侑大の言葉を聞いた瞬間、三花の肩から力が抜けた。自分の感じていた息苦しさが初めて侑大に届いた気がした。夫婦の間に、穏やかな沈黙が流れていく。