<前編のあらすじ>
小学校入学を控え、迷うことなく赤いランドセルを選んだ息子・竜星。楓は「からかわれるのでは」と不安を感じ、他の色を勧めるも竜星の意思は変わらなかった。
夫の洋介と義母の芙美子は「今の時代なら問題ない」「竜星の気持ちを尊重すべき」と賛成の立場で、楓の心配には同調してくれなかった。
楓は洋介に、小学生時代に赤いランドセルを使っていた男の子がからかわれていた記憶を打ち明けた。洋介は「時代が違う」となだめるが、楓の不安は消えないままだった。
●前編【「赤がいい!」息子が迷わず選んだランドセルに…母親だけが抱いた拭えない不安の正体】
最後の確認をする楓
「竜星、今日は特別におやつ食べて帰ろうか」
翌日、楓は自転車で幼稚園まで竜星を迎えに行った帰りに、途中にある喫茶店に立ち寄った。ママ友たちとたまに使うこともある店で、落ち着いた雰囲気は話をするにはぴったりだったが、それ以上に甘いものでなんとか説得する方向に持っていけないだろうかと、姑息な考えを抱いていたのも事実だった。
静かな店内でメロンクリームソーダとコーヒーを注文し、楓は本題を切り出した。
「竜星、ランドセルの色のことなんだけどね」
「うん」
「昔ってランドセルは赤と黒しかなかったの。それでね、男の子は黒、女の子は赤って決まってたのよ。だから赤いランドセルを使ってるともしかしたら、女の子みたいって変な目で見られちゃうんじゃないかなってお母さん心配なの」
楓の話を竜星はストローに口を付けながら聞いている。反応はないが楓はとりあえず続けた。
「お母さんね、竜星が嫌な思いをしたら悲しい。それにね、ランドセルってすごく高いものだから、赤が嫌だからって簡単に買い替えることはできなくて、6年間ずっとそのランドセルを使い続けないといけないの。それは分かる?」
「うん」
「それでも、竜星は赤いランドセルがいい?」
再度、楓は竜星に尋ねた。竜星はしばらく無言だったが、それでも最終的には縦にうなずいた。
「うん、赤がいい」
竜星の反応を見て楓は受け入れることにした。もちろん不安な気持ちがなくなったわけではない。けれど、自分の気持ちを伝えてなお、竜星が赤いランドセルがいいと言うならばその気持ちを尊重しようと思った。
