理想の部屋づくりが止まらない
入社して2週間も経つころには、麻紀の毎日は仕事と買い物でほとんど埋まっていた。
新入社員として覚えることは山のようにあり、社内外で新しく出会う人も多いため、気疲れが絶えない。それでも、部屋のドアを開けるたび、不思議と気持ちが切り替わった。
「ただいま」
最初のうちは、必要最低限の家具家電さえあれば十分だと思っていた。しかし、実際に住み始めると、欲しいものは次々に現れた。
例えば、実家から持ち込んだ座椅子よりも座り心地のいいソファがほしいし、床には毛足の長いラグを敷きたい。ハンガーや収納ケースも、同じメーカーで揃えたい。毎朝使うマグカップやプレートだって、どうせなら気に入ったものがいい。
だから仕事終わりや休日には、麻紀は必ずと言っていいほどインテリアショップに足を運んだ。気になった棚の前で立ち止まり、スマホに残した部屋の写真を見ながら、サイズや色味を確かめる。
「これ、ちょうどいいかも」
思わず口に出してから値札を確認して、少し躊躇する。だが、住んでいるマンションは社宅扱いで家賃は安い。学生時代に塾講師のバイトをして貯めた貯金もある。
麻紀は思い切って購入し、クレジットカードを切った。
数日後、新しい棚が届いた。説明書を見ながら1人で組み立てるのは予想以上に面倒だったが、完成したそれが壁際にぴたりと収まると、その手間すら報われた気がした。
「いい感じ」
誰に聞かせるでもなく呟く。
何もなかった空っぽの部屋が、少しずつ自分の理想に近づいていく感覚は、麻紀を夢見心地にさせた。実家の自室とは違う。誰かに与えられたのではなく、自分の力で手に入れた、自分だけの場所だ。
部屋の真ん中に立ち、麻紀はゆっくりと周りを見渡して微笑んだ。
