<前編のあらすじ>

赤城美乃里(38歳)は大手電機メーカーの子会社でカタログ制作ディレクターとして働いている。

ところがある日、役員の一人の佐藤専務がセクハラ行為で左遷されることに。

実力もあり、人望も厚かった佐藤専務がセクハラ行為をするはずがないと、美乃里をはじめ多くの社員が違和感を覚えた。ただ証拠がそろっていたため、本社は左遷を決定してしまう。

代わりに役員に出世したのは朽木課長(51歳)だった。約3年前に転職してきた女性で、異例の大抜擢。ただ、実績もなく、人望も薄い朽木課長が、なぜスピード出世したのか、疑問に思う社員も多かった……。

●前編:【「相当な悪女かもしれないよね」61歳男性役員がセクハラで左遷…代わりに「実績のない51歳女性」が抜擢された「本当の理由」】

「うちの会社、人がどんどん辞めてるしね……」

それから半年後のある日。業務が終わった後に、美乃里は同僚の松永さと子に呼び出され、会社の近所にあるビストロで会うことになった。

 

「実は、転職しようと思ってるんだ……」

さと子がそう言うのを聞いても美乃里は驚かなかった。どうせそんな話だろうと予想していたからだった。

「うちの会社、人がどんどん辞めてるしね……。そんな話だと思ってた」

「ごめんね」

さと子が謝ったが、美乃里は別に怒ってはいなかった。彼女自身も、早く転職しないとまずいと思っていたところだった。

「やっぱり、朽木さんのせい?」

思い切って聞いてみると、さと子は渋々ながらもうなずいた。

「うん……」

「やっぱそっか。まあ、気にすることないよ。みんな同じ。朽木さんのことが嫌で辞めていくからね」

「朽木さんが役員になってから、やりにくくて。細かいことまで管理されて、ちょっとでもミスがあるとすぐ𠮟責されるし……。リモートワークもダメになったしね」

さと子はレモンサワーを一気に飲みほした。普段の彼女はそんなことをしないので、相当うっぷんが溜まっていそうだと美乃里は思った。

「頑張っている人ほど報われない雰囲気になってきてるよね」

美乃里が思い切って本音を打ち明けると、さと子は何度もうなずいて同意した。

「そう! 売上に貢献してる人とか、チームのために雑務をやってくれる人とか、そういう人ほど評価されなくなったよね」

「朽木さんの周りにいるの、みんなイエスマンだしね」

「ほんとそうなんだよ……。うっかり陰口なんか言おうものなら、すぐ告げ口されそうな雰囲気だしね」

「この前牧野さんが怒られてたのも、多分そんな理由だよね」

美乃里がため息をついた。

「牧野さんて、めっちゃ真面目でいい人なのにね……」

「こういう後ろ向きな雰囲気がホントに嫌なんだよ。だから転職活動を急いだ」

「わかる」

会計を済ませて店を出る時、さと子は「美乃里も早く転職したほうがいいよ」と言い、帰っていった。

ため息をついて帰路につく美乃里だったが、その後に思わぬ展開が待っていることには、その時はまだ気づいていなかった。