3.新指標採用がもたらす変化

筆者の提案は、単なる目標数字の変更ではなく、財政の持続可能性と経済政策のパラダイムシフトを企図している。

まずは「緊縮」から「成長」への転換だろう。というのも、現在のインフレ局面において、PB黒字化目標がもたらしやすかった緊縮バイアスや縮小均衡志向から脱却し、「成長によって財政を改善する」という「責任ある積極財政」の考え方に基づく財政運営の論理的根拠を提供できる。

また、「フロー」から「ストック」へ視点を移すことにより、目先の収支といったフローに一喜一憂するのではなく、長期的な国のバランスシートといったストックに焦点を当てた、より財政の持続可能性に直結する政策判断を可能にする。

さらに、財政の「質」重視の視点が生まれ、単に歳出を削るだけでなく、「分母となる将来のGDPを増やすための投資といった質の高い財政支出」を積極的に行う意義を高めることになる。

4.「責任ある積極財政」具体化のポイント

筆者の提案は、高市政権が掲げる「責任ある積極財政」を具体化するための指標論的基盤の提供を意図するものである。そもそも「責任ある積極財政」とは、経済成長に資する分野に重点的に投資する「積極財政」と、財政規律を維持する「責任」を両立させることを目指す政策理念である。

そして、この理念を実効性あるものとするための具体的なポイントは、大きく「成長戦略への転換」「支出の質の向上」「規律維持の仕組み」の3つに整理できる。

(1)財政運営の軸を「成長戦略」へ転換

「責任ある積極財政」の要諦は、財政を単なる配分手段や景気対策としてではなく、「未来の成長に向けた戦略的な投資ツール」と位置づけることである。そして、成長投資の重点化として、主に二つの視点がある。

まずは、危機管理・成長分野への投資である。AI・半導体、造船、宇宙、海洋等の「成長の種」となる17分野への投資やスタートアップ投資等を継続的かつ大規模に行うことは、将来の分母となるGDPを増大させる最も効果的な方法となろう。

また、人への投資も重要である。これは、労働生産性の向上に直結する教育、職業訓練、リスキリングへの予算を強化することで、所得格差の是正やトランポリン型社会の実現などを進め、将来的な税収増と社会保障負担の軽減を目指す。

さらに、規制改革やAI化への投資も相まることで、経済全体の供給力を強化し、潜在成長率を高めることになる。これは、供給不足によるインフレを招くことなく、実質GDPを拡大させるための不可欠な要素となろう。

こうして、賃上げ、生産性向上、供給力強化を一体的に進めることにより、国民のデフレマインドからの完全な脱却を目指すことになる。そうなれば、名目経済成長率が高まり、結果として債務残高対GDP比を低下させる最大の「財政健全化策」となる。

(2)財政支出の「質」の向上

一方、積極財政が単なるバラマキと化さないよう、財政支出の効果、すなわち費用対効果を極限まで高めることも必要になってくる。

という意味では、まずEBPM(Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)を徹底し、政策効果の客観的なデータに基づいた検証が重要になる。効果が薄い、あるいは時代に合わなくなった既存の「レガシー予算」を聖域なく見直し、その財源を成長分野に振り向ける「事業仕分け」の恒常的かつ実効性ある実施が不可欠となろう。

また、高齢化が進む日本において、歳出の大部分を占める社会保障費の持続可能性を確保することは、「責任」ある財政運営の最重要課題となる。そのため、予防医療や健康寿命の延伸への投資を強化し、将来的な医療・介護給付費の伸びを抑制することも重要となろう。また、現役世代と高齢者間、および世代間の給付と負担の公平性を確保するための制度改革を継続的に行う必要がある。

(3)財政規律維持の仕組み強化

一方、「積極財政」は財政悪化と表裏一体のリスクを伴うため、「責任」を担保するための強固な規律の仕組みが不可欠となる。

まずは、PB目標ではなく、筆者が提唱する「不況期以外での債務残高対GDP比の安定的な引き下げ」を主たる財政目標とすれば、この目標達成のため、毎年度の予算編成プロセスにおいて、目標からのかい離度をチェックすることで、規律を維持できる。

また高市政権では、予算編成・税制改正の「前段階」で、租税特別措置・高額補助金・基金の政策効果を横断的に点検する日本版DOGE(政府効率化組織)を設置した。この機関が効果の低いものを廃止に導き、国民への説明責任を強化することで、無駄な政府支出を削減し、ワイズスペンディングに寄与する。

さらに、将来的な財政負担の在り方について、消費税、所得税、法人税といった主要税制を総合的に見直し、「経済成長を阻害しない税制」と「安定的な財源確保」を両立させる枠組みの構築も必要になろう。「積極財政」によって経済成長が実現し、それに伴って税収が自然増する「成長の果実」を、歳出拡大のみではなく「債務膨張の抑制」や「社会保障など将来の給付」に確実に充てる仕組みも重要になる。