消費者としての感覚【レポート本編】
個人投資家が持つ最初にして最大の武器は「消費者」としての視点です。プロのファンドマネージャーが難解なレポートやデータと格闘している間に、私たちは日常生活の中から次の成長企業を見つけ出すヒントを得ることができます。
伝説のファンドマネージャー、ピーター・リンチの有名な逸話があります。彼はある日、妻からヘインズ(Hanes)のストッキングの品質が非常に高いという話を聞きました。そもそも、当時の男性ファンドマネージャーでストッキングの品質を理解できる者がどれだけいたでしょうか。たとえ女性の専門家がいたとしても、レポートに「肌触りや使い心地が良い」といった定性的な感覚を落とし込むことは困難です。リンチはこの「日常の感覚」をきっかけに調査を進め、ヘインズ株への投資で大きな成功を収めました。
これは、私たちの身近なところでも起こり得ます。例えば、週末に訪れた「無印良品」の店舗がいつも大勢の客で賑わっていることに気づいたとします。この「肌感覚」は、企業の好調な業績を予測する強力な先行指標です。
しかし、真の好機はここからです。その観察を裏付けるように、次の四半期決算で実際に好業績が発表された時、個人投資家は自信を持って行動できます。機関投資家が「この好業績は一時的なものではないか」と懐疑的に分析している間に、現場の熱気を知る私たちは、彼らよりも一歩先に確信を持って投資を実行できるのです。
巨人が入れない遊び場:見過ごされた中小型株
機関投資家は、その巨大な資金規模ゆえに、特定の領域に足を踏み入れることができません。それが「中小型株」の市場です。この構造的な弱点は、明確な因果関係に基づいています。
まず、1兆円を運用するファンドが時価総額100億円の企業に投資しようとしても、規模が小さすぎて意味のある投資ができません。
次に、機関投資家が顧客にならないため、彼らを主要顧客とする証券会社のアナリストも、中小型株を分析するインセンティブがありません。その結果、多くの中小型株は「誰にも見られていない」状態になるのです。
この情報の空白地帯こそ、個人投資家にとっての宝の山です。本来の企業価値に対して株価が割安なまま放置されている「お宝銘柄」が数多く眠っています。
学術的にも、「小型株効果」として知られる現象があります。これは、リスクを考慮しても、長期的には小型株が大型株のリターンを上回る傾向があるというものです。
もちろん、中小型株は変動性が高いリスクも伴いますが、複数の銘柄に分散投資することで、その中の一つの「大化け株」がポートフォリオ全体のパフォーマンスを劇的に引き上げる可能性を秘めているのです。
「嫌われ者」にこそチャンスあり:逆張りの心理学
市場で悪いニュースが出た銘柄に対して、機関投資家は顧客や上司への「説明責任」から厳しい立場に置かれます。ポートフォリオにパフォーマンスの悪い銘柄、いわば「腐ったみかん」が混じっていると、全体の「見栄え」が悪くなるため、企業の本質的な価値とは無関係に売却せざるを得ない状況に陥りやすいのです。
その結果、株価は必要以上に下落します。
この心理について、経済学者のジョン・メイナード・ケインズは的確に表現しています。
世間一般と同じことをして失敗する方が、常識外れのことをして成功するよりも評判が良い。
これは心理学で「ハーディング現象」と呼ばれるもので、専門家であっても、独創的な判断でリスクを取るより、集団の中にいて安心感を得ることを優先する傾向を指します。皆で損をすれば、個人の責任は目立ちにくいからです。
ここに個人投資家のチャンスがあります。他の投資家がパニック売りをしている不人気株こそ、企業の本来の価値を冷静に見極められる個人にとっては、絶好の買い場となり得ます。誰も注目しなくなった時こそ、静かに仕込む好機なのです。
ただし、この戦略には細心の注意が必要です。機関投資家が売るのには、我々が知り得ない正当な理由がある可能性もあります。最近のニデック(Nidec)のケースのように、業績不振の裏に会計上の問題が隠されていることもあります。単に株価が安いというだけで飛びつくのではなく、その企業の中身が本当に腐っていないかをじっくりと見極める必要があります。「逆張りは急いではいけない」という鉄則を忘れてはなりません。
