中立金利は何%?そのとき10年金利は?
その中立金利について植田総裁は、「現在の金利水準は、基本的には中立金利より低いと考えています。ただ、どれくらい距離があるのかという点に関しては、(中略)次回利上げをすることがあれば、そのときにその時点での考えをもう少しはっきりと明示させて頂ければと思います」と、今回の記者会見で述べています。
したがって、利上げが予想される12月MPMでどんな発言があるのか待ちたいと思います。中立金利が今回の利上げ局面のターミナルレート(政策金利の最終到達点)と考えると、12月に利上げして、仮にその後半年に1回ペースで利上げを継続したとすれば、2027年半ばに政策金利は1.5%になります。翌日物金利スワップ市場ではこの程度の水準をターミナルレートとみているようです。
政策金利と10年金利のスプレッドは、例えば、潜在成長率が1%程度に低下した2000年ごろから、リーマンショックが発生する直前までの平均が1.3%程度ですので、それを政策金利の1.5%に加えると、10年金利は2.8%になります。あくまで頭の体操ですが、この程度の水準が10年金利の中立金利であると仮定します。
他方で、内閣府の推計による潜在成長率は現在0.5%ですが、これを頑張って1%まで引き上げたとしましょう。それに物価安定目標の2%を足した3%が日本の名目国内総生産(GDP)成長率の定常的なイメージだとすれば、10年金利2.8%という水準は、長期金利が名目GDP成長率を上回らない限り財政が発散しないとする「ドーマー条件」をぎりぎりクリアします。
このように、仮に10年金利の中立金利が3%を少し下回る程度だとすれば、政策金利を1.5%程度まで引き上げても、景気には悪影響を及ぼさず、財政も発散させないことになります。したがって、12月に利上げした後、追加で2~3回は利上げが可能ということになりますが、果たしてどうでしょうか。
ちなみに、先週のレポートで紹介した10年金利の推計を、12月利上げを前提としたものに修正しました(図表4)。
<図表4 10年金利予測値と実績値>
具体的な推計方法は先週のレポートで紹介しましたので繰り返しませんが、引き続き足もとの10年金利は推計値とほぼ重なっており、来年にかけて2%を超えていく姿に変わりはありません。インフレリスクが強まれば、もう少し上振れる可能性もあります。
このように日銀が緩やかな利上げを続け、10年金利が2%を超えて上昇していけば、いずれはどちらも中立金利に到達するでしょう。しかし、こう言うと身もふたもありませんが、中立金利は推計によって正確な数字が分かるというような代物ではありません。
中立金利に近づいてきたと推量される段階になったら、政策金利水準が景気や物価に悪影響を及ぼしていないか慎重に見極めながら、中立金利に達したかどうかを判断するしかないのが現実です。12月MPMで0.75%に利上げしたとしても、まだそうした段階ではないとみていますが、植田総裁が中立金利についてどんな発言をするのか楽しみです。
