――ここまで国内のマーケットや市場参加者の近況について語っていただきましたが、これらを結ぶ役割を果たす資産運用会社の立場から問題意識をお聞かせください。
喫緊の課題として、多様性に富んだ職場環境を作ることが挙げられるでしょう。資産運用会社に限らず日本の金融機関は、各種規制の影響からか、性別・国籍共に他の業界と比較して偏りがあるようにと思います。
国内で競争するだけなら大きな問題にはならないかもしれませんが、グローバルで競争するためには、性別や国籍などにかかわらず優秀なメンバーを集めていくことが求められます。
実際われわれも、こうした区別なくフラットに採用活動を進めています。。最近は、国内採用で外国人が入社するケースも増えており、国籍のダイバーシティも広がっています。
――今でこそ、資産運用業界で女性がトップに就くケースが散見されるようになりましたが、阪口社長はその先駆者として知られていますね。
確かに私が社長に就任した2018年当時資産運用会社での女性経営者の登用はまだ珍しかったと思います。特に日本の金融業界は、先述のとおり、長らく「シングルジェンダー、シングルナショナリティ」というコンサバティブな業界でした。グローバルとの競争意識が希薄で、特に独立系の運用会社は販売会社との関係に依存する傾向が強いという業界特有の文化や構造が深く影響していると思います。
ABは、日本だけでなく、グローバルで、国籍や性別にとらわれないフラットな採用を進めてきました。私自身も、そうした方針のもとで、社内の人間ではなく外部から風を吹き込む意味も込めて採用されました。セス・バーンスタインCEOは「多様性こそが競争力の源泉であり、ABはその変革の先頭に立ちたい」と語ってくれました。実際、国籍や文化的背景の異なるメンバーが集まることで、組織の創造性や柔軟性が格段に高まっていると感じています。
――多様性に光を当てることも、国内金融機関、そして国内市場全体をよりよい方向に動かす大きな要因となりそうですね。
そうですね。実際にフラットな採用活動を通じてより優秀かつ意欲的な社員がそろっていると自負しています。彼らは日常業務をそつなくこなすことはもちろん、新たなビジネスのアイディアを次々に考えてきてくれます。
そして、ボトムアップで上がってきたさまざまなビジネスアイデアについて、将来をイメージしながら優先順位をつけることが経営者の役割だと考えています。日本企業では社長が何でも決めてしまうケースが少なくありませんが、それでは組織として機能しづらいでしょう。
組織作りは日本企業全体の大きなテーマです。再三お話ししてきたエンゲージメントの活動を通じてより良い方向に導いていくことが、われわれのような資産運用会社に求められる役割と言えるでしょう。
――本日はどうも、ありがとうございました。
アライアンス・バーンスタイン株式会社 代表取締役社長 阪口 和子 氏
さかぐち・かずこ/1990年オリックス入社。チューリッヒ・スカダー・インベストメンツ、シュローダー・インベストメント・マネジメント、ラザード・ジャパン・アセット・マネジメント、HSBC投信、ステート・ストリート信託銀行を経て、2018年12月より現職。2020年6月より一般社団法人日本投資顧問業協会理事。2024年1月より一般社団法人東京国際金融機構理事。2025年8月より公益社団法人日本証券アナリスト協会理事。
