防衛向けが急伸 国の方針で受注拡大と採算改善が同時に進行

IHIの株価が好調な背景には防衛費の拡大があります。ロシアとウクライナの衝突を教訓に、国は22年に「国家防衛戦略」および「防衛力整備計画」を策定しました。防衛費を積み増す方針で、27年度までにGDP比で2%まで拡大させる計画です(21年度は同0.95%)。

そして、IHIの主力は民間向け航空エンジンながら、防衛事業も手掛けます。「スタンドオフ防衛能力」など、国が重視する7分野のすべてで製品やサービスの供給能力を有します。IHIを含む防衛関連企業には業績拡大の思惑が向けられており、主要銘柄の多くで株価の強い上昇が出現しています。

【主な防衛関連企業の株価5年騰落率】

・三菱重工業:15.97倍(2024年度中央調達*の契約額:1兆4567億円)
・IHI:12.65倍(同578億円)
・川崎重工業:6.76倍(同6383億円)
・日本電気:3.97倍(同3117億円)
・三菱電機:2.66倍((同4956億円)
・富士通:2.54倍(同1736億円)
・(参考)日経平均株価:1.98倍
※25年9月24日終値時点
*中央調達…防衛装備庁で実施する自衛隊の任務遂行に必要な装備品等(火器、誘導武器、電気通信、船舶、航空機、車両、機械、弾火薬類、食糧、燃料、繊維およびその他の需品)および役務で防衛大臣の定める主要なものの調達

出所:防衛装備庁 中央調達における調達実績

実際に業績にも防衛費拡大の影響が出てきました。IHIの受注高は25年3月期までの2年間で28.2%増の1兆7511億円まで拡大していますが、増加の大部分を「航空・宇宙・防衛」セグメントが占めています。うち防衛向けは1156億円から3205億円へと2.77倍の急増です。

IHIのセグメント受注高(2020年3月期~2025年3月期)
 
出所:IHI 決算短信より著者作成
 

受注量だけでなく、採算も改善が期待されます。防衛向けは契約制度が新しくなり、23年度以降は企業努力が利益率に反映される仕組みとなりました。従来制度の受注分は27年3月期までに切り替えが完了する見込みで、31年3月期までに防衛事業の営業利益率は10%まで向上する見通しです(民間エンジン:同20%、航空・宇宙・防衛セグメント全体:同15%)。

このような経緯から、IHIの防衛事業は量と質(採算)が同時に改善する予想となっています。投資家は、IHIが民間エンジンに次ぐ収益源を獲得することに期待し、資金を向けていると考えられます。