インフレ局面で求められる財政運営

以上の結果は、過度な緊縮財政を実施すると、逆に名目成長率が下がって財政が期待通り改善するとは限らないということを示している。つまり、経済成長と財政の関係を鶏と卵に例えれば、税収という卵を産む経済成長、すなわち鶏を減らすような緊縮財政を過度に行えば、却って財政健全化は遠のきかねないことになるといえよう。

今後の青写真としては、景気回復局面ではインフレに伴う財政改善分の一部を適切に活用しながら政府債務残高/GDPの低下を維持した財政運営がベストだろう。しかし、景気が後退局面に陥り、金融緩和余地も限られた状況になれば、財政運営も政府債務残高/GDPの低下よりもマクロ経済の安定化が重視される機能的財政アプローチが望ましくなると言えよう。特に近年のように40年ぶりの世界的なインフレ等により、民間部門から政府部門への行き過ぎた所得移転が生じやすい局面では、効果的な財政政策が必要と考えられる。

具体的なメニューとしては、物価高対策はマストだが、給付金や補助金については需要喚起の効果が出現しにくい側面もあるため、これらに頼るのは危険である。効果的と考えられるのは支出に伴う減税である。食料・エネルギーに関する恒久減税措置に加え、トランプ減税のように国内設備投資に対する即時償却減税や残業・転職を促すような減税措置を行えば、資本や労働投入量、労働生産性が高まる可能性があり、潜在成長率の引き上げにも効果的と考えられる。

また、石破政権下では防衛費増額や少子化対策のために、その財源確保が必要となっている。しかし、特に少子化対策といった人的資本への投資を通じて将来の担税力が拡大することになれば、それによって債務返済財源も担保されることになる。となれば、特例法の制定を経ずに発行が認められる建設国債のような「こども国債」発行なども検討に値しよう。更に、長期停滞からの脱却を確実なものとするために、来年の春闘も重要である。政府による更なる春闘への働きかけや企業の賃上げに対するインセンティブを誘発させる政策も必要になってくるだろう。

結局、今回の失われた30年からの脱却の芽を開花までつなげることができれば、政府債務の縮小を重視した財政運営も実施しやすくなるが、逆に失敗してしまうと失われた30年からの本格的な脱却は困難になろう。そういう意味でも、インフレ局面での財政運営は非常に慎重な景気への配慮が必要ではないかと考えられる。