年金制度改正法の全体像を押さえる
働き方や生き方の多様化が進む中、年金制度もそれに合わせて変わろうとしている。2025年6月13日に成立した年金制度改正法は、短時間で働く人々の社会保険加入拡大や在職老齢年金の見直しなど私たちの生活にも大きく関わる内容だ。制度改正のポイントを押さえておこう。
社会保険の加入対象拡大で90万人に新たな年金メリット
改正の目玉のひとつは社会保険(厚生年金・健康保険)の加入対象が拡大することだ。これまで「月額8万8000円以上」という賃金要件があったものが撤廃される。いわゆる「年収106万円の壁」がなくなることで働き方の選択肢が広がる。企業規模による制限も27年10月~35年10月にかけて段階的に廃止される。
この改正により約90万人が新たに社会保険に加入できるようになる。例えば年収130万円のケースで加入前後を比較すると、扶養されていなかった人(第1号被保険者)が加入により第2号被保険者になると、保険料(国民年金+国民健康保険)負担が月2万3600円から1万5600円(厚生年金+健康保険)に減少し、20年間加入すると月1万1100円の年金増加が年金受給開始から生涯にわたって見込める。また、傷病手当金や出産手当金といった医療保険の給付も充実する。
在職老齢年金制度の見直しで「働き控え」問題に対応
現行制度では、年金を受けとりながら働いて給与をもらう場合、年金と給与の合計額が月50万円を超えると年金が減額される仕組みがある。この月50万円という基準額が26年4月から月62万円に引き上げられる。
この見直しにより、約20万人が新たに年金を全額受給できるようになる。減額を意識せずに働けるようになるため、高齢者の「働き控え」問題の緩和や人手不足解消にもつながると期待されている。
例えば、賃金が月45万円、厚生年金の受給額が月10万円の場合、現行制度では合計が50万円を超える部分の半額(2万5000円)が支給停止となるが、改正後は基準額が62万円に引き上げられるため、減額されずに全額受け取れるようになる。