金融教育の課題

一方で、学生時代の「学び」を、自身のFWB向上につなげるための課題も見えてきています。

1点目が、学校で金融について学ぶ時間は必ずしも十分でない点です。授業時間には当然ながら制約があり、「金融」以外にも学ばなければならない科目・内容があります。指導要領改訂により中身は充実しましたが、その全てを理解し、自分ごと化する時間が確保できているとは言えません。

2点目は、「金融教育」が、ともすれば「投資推奨教育」に偏りがちではないかという点です。FWB向上のためには、「人生で実現したいこと」や「自分にとってのウェルビーイング」を明確にしたうえで、それらを実現するために、家計の中で上記4つのステップに取り組むことが重要です。投資はその取り組みの中の1つの手段にすぎず、投資に取り組むだけで全てが解決し、ウェルビーイングになれるわけではありません。

金融教育の土台には「将来、どのようなこと・状態を実現したいのか」というライフプランが必要であり、そのうえで、①必要となる資産(ヒト・モノ・お金)を考え、②それを形成する手段として、投資に限らず、さまざまな金融商品・サービスについて学ぶという全体像への理解を、教え手と受け手の双方が持つことが望まれます。

3点目は、学生時代の学びを継続していく点です。高校生以下の年代は、保護者世帯の扶養家族として生活しているため、「お金を稼ぐ」や「家計を管理する」経験が乏しく、実感がわかない学習内容もあるかもしれません。そういった点も踏まえ、学生時代に受ける授業は「金融教育の入り口」だと認識し、継続して学んでいく習慣を身に付けることがポイントとなります。

継続的な学びの重要性

では、継続的に学ぶためにはどうすればよいでしょうか。まずは「家族でお金について会話すること」です。ミライ研のアンケート調査によると、世代の異なる家族とお金について「会話している・たまに会話している」と回答したのは、26.4%とおよそ4人に1人にとどまりました。しかし今後は、子供が学んできたことを家庭に還元し、さらには家族のライフプランや資産形成計画を一緒に「把握」し、「行動」を(疑似)体験しながら将来に向けた実践力を身に付けていく、という家庭での取り組みが進むことが期待されます。加えて、この取り組みは、今まで金融教育を受けたことのない大人にとっても、新たな気付きを得る機会になります。家族全体のウェルビーイングを高めることにもつながるはずです。

学生時代は確かな基礎を築いたうえで、社会人になった後は職場における金融教育の機会を活用することが最も身近で有用です。前回 のコラムでもポイントとして示したように、近年、従業員のFWB向上を目的とした企業の取り組みが増えてきています。資産形成に関する各種会社制度の活用はもちろん、金融教育機会への参加や自身のライフプラン・マネープランに合わせて図表2にあるような金融知識を、外部の知見も活用しながら習得し続けることが、家計のFWB向上にとって大切になるでしょう。

【図表2】FWBの実現・向上のために必要となる基本的な金融知識15項目

 
(出所)金融庁金融研究センター金融経済教育研究会「研究会報告書」よりミライ研作成
 

(筆者:三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員 矢野 礼菜)

●参考記事:海外の金融経済教育はどうなっている? 英国・米国の「金融リテラシー戦略」から最新動向を探る