何も考えていない夫
「何を言ってるの? あれは私たちの生活費でしょ? それをなんで蕎麦屋の開業資金なんかに使うのよ? そんなことして私たちの生活はどうなるのよ?」
「蕎麦屋で稼ぐんだから問題ない」
健司は当然だと言わんばかりに返事してくる。
頭がクラクラしてきた。
確かに健司は蕎麦が好きだ。2人で外食をするとなると必ず選択肢は蕎麦になるくらい健司は蕎麦が好きなのだ。だが、蕎麦が好きなことと蕎麦を打てることのあいだには天と地ほどの差がある。
「蕎麦なんて打てるの?」
「何度かな。まあ修行は必要だろう」
「バカ言わないで!」
弘美は声を張り上げていた。弘美の言葉に健司は不快そうな顔になる。それでも弘美は言葉を続けた。
「そんな簡単にできるわけないでしょ! 現にあなただって口に合わない蕎麦だったとき、腕がないとか文句言ってたじゃない! なのにどうして自分がそんな数ヶ月、練習しただけでできるようになるって思えるのよ⁉」
「何だと……⁉」