行こうか
レオの足は、すっかり元どおりになった。
かかりつけの獣医さんも「もう心配いらないですよ」とにこやかに言ってくれて、初美は思わずホッと胸を撫で下ろした。
朝、レオがリビングのカーテンを鼻先でめくって日差しに目を細める様子を見ながら、初美はコーヒーを淹れた。
大祐が起きてきたのは、それから少ししてから。寝癖を手ぐしで整えながら、「公園、行く?」と、初美が尋ねるより先に聞いてくる。「公園」という言葉に反応したレオも嬉しそうに尻尾を揺らした。
「行こうか、レオ」
初美は首輪を手に取って、そう声をかけた。
外は、少し冷たい風が吹いていたが、空は澄み渡っていた。近所の公園の並木道を歩きながら、レオはひとつひとつの電柱を丁寧にチェックして、大祐と初美はその姿を見ては小さく笑った。
「最近さ、俺たち、こうして一緒に散歩する時間、増えたよな」
「うん、なんだか家族らしい時間って気がする」
初美が言うと、大祐は「そうだな」と頷いて、レオのリードを少し緩めた。レオはその隙に芝生へ飛び出していく。
「ねえ、大祐。大会、また出たいって思う日が来るかな」
「出たければ出ればいい。でも、無理する必要はない。レオも、初美も」
大祐のその言葉に、初美は「うん」とうなずいた。
大会のために走るのではなく、楽しいから走る。
それだけで十分だ。
いつの間にかこちらへ戻ってきたレオが「遊ぼうよ」と誘うように再び芝の上を駆け出し、大祐はそれを追いかけていく。しばらく彼らの姿を眺めていた初美は、風を全身に受けて深呼吸をしたあと、ゆっくりと走り出した。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。