保身ばかりだった
「孝雄さん……! もう1度、ちゃんと雄星と話をして……」
「必要ない。そもそもお前がちゃんと雄星を管理していないからこうなったんだ」
「でも、さっきのは一方的すぎる……!」
声を震わせながら言葉を紡ぐと、孝雄の肩がぴくりと揺れた。怪訝そうに振り向いた彼の歩幅が少し小さくなる。
「あなたの言ってることは理解できるし、間違ってないと思う。でも私は……もっと雄星の気持ちを大切にしたい」
「気持ちを大切にって……雄星の判断に任せた結果がこれじゃないのか? 何度も言ってるだろう? 綺麗ごとで子育てはできないって」
「あなたが子育てしたことなんてないじゃない!」
玲菜は思わず声を張り上げた。
「……今回のことは、私の責任なの。あの子、朝、頭が痛いから学校を休みたいって言ったのに、私が無理に行かせたの。お父さんに怒られるでしょって。でも怒られたくなかったのは、私。私が孝雄さんの目ばっかり気にして、雄星を追い込んだの」
いざ言葉にしてみると、自分の言動がいかに保身に満ちたものだったかがわかる。胸の奥に沈んでいた後悔がとめどなくあふれ出た。
孝雄は玲菜の顔を一瞬だけ見て、すぐに視線をそらした。何か言いたげに口を開きかけたが、結局、何も言わずに小さくため息をつくと、くるりと背を向けた。
「この話は帰ってからだ」
そう言って病院を出ていった後ろ姿は、どこか頼りなく、そして少し寂しげだった。
玲菜は自分の心臓が激しく脈打っているのを感じた。
思えば、こんなにはっきりと孝雄に意見したのは出会ってから初めてのことだった。