遺言書は亡くなった人の最終意思を示す大切な文書だ。しかし、その過程で遺言者以外の手が絡むと、残された家族の心情に微妙な亀裂を生むことがある。今回は、父親が遺言書を作成する際、兄とだけ相談していたことで、兄弟間に深い隔たりを残した宇野家の物語を紹介する。法的には有効でも、感情は別——そのギャップがいかに深い溝につながるか、確認していただきたい。
葬儀の夜、弟に明かされた「秘密の相談」
「いや、お前にだけに隠していたわけじゃないんだよ。ただ、父さんと俺でいろいろ相談してたんだ」
葬儀が終わって間もない頃だった。親戚が帰り、祭壇の花がまだ瑞々しさを保っていたその夜、兄の雄也さんがそう言った時、弟・俊矢さんの心には冷たいものが流れた。
「相談って、遺言の内容を……?」
「うん。父さんが俺にいろいろ頼りたいって言ってくれててさ」
俊矢さんが父の遺言書の存在を知ったのは、この時が初めてだった。そして、それが雄也さんとの“話し合い”で作られていたということも。