注意したい分配金の「錯覚」

そんな人間心理を上手く捉えた分配金ですが、投資信託を使って資産運用をしていく上では、その仕組みへの理解が必要になります。なぜなら、あまり分かっていないで持っていると、「分配金が多い=運用が順調」「分配金が出ている=儲かっている」といった錯覚に陥ってしまうことがあるからです。

この錯覚に陥らないようにするためにも、まずは、「投資信託は、多くの投資家のお金をまとめて運用するもの」「投資信託という器に対して、一人一人違うタイミングで投資家は資金を投じている」という点を押さえておきましょう。同じ投資信託を購入して基準価額はプラスになっているのに、含み益を抱える投資家と含み損を抱える投資家が両方出てくる理由がこれにあたります。つまり、投資信託自体で利益や損失が発生していることと、それを購入している投資家一人一人における含み益や含み損の有無や程度は、別物だということです。

●投資タイミングで変わる含み損益のイメージ

※上記では手数料や税金などは考慮していません。

しかし、分配金は、そうした投資家一人一人の損益状況に応じて、その金額を加減してくれるわけではありません。あくまでも投資信託自体の運用状況などを踏まえて、委託会社(運用会社)によって決められます。そして、「1万口当たり〇〇円」というように、投資家に対して一律で分配金は支払われるのです。だからこそ、分配金の入金記録だけを見て「儲かっている」と誤解してはいけません。「基準価額と分配金を合わせたトータルリターンで、投資の損益を確認する」という癖をつけることが、とても大切になります。

「当期の収益」以外も分配金の原資になる

すべての投資家に対して、その持ち分に応じた分配金が一律で支払われていると説明しましたが、無制限に分配金を支払って良いわけではありません。分配金として支払って良い範囲である「分配対象額」は、一般社団法人投資信託協会が定める規則によって決められています。

●投資信託の分配対象額

※分配金額は収益分配方針に基づいて委託会社が決定しますが、委託会社の判断により分配金額を変更する場合や分配を行なわない場合もあります。

ここで押さえておきたいのが、「①当期の収益」だけでなく、「②設定来の繰越分配対象額」も分配対象額となり、この範囲内で運用会社は分配金額を決めることができるという点。毎月分配型ファンドなどに見られる、「運用が不調な状況でも分配金を安定的に支払っている」ということができるのは、②の繰越分も分配できる仕組みのおかげなのです。

過去の繰越分も含めて支払われた分配金は、「タコ足(タコが自分の足を食べている)分配」と呼ばれ、批判の対象となることがあります。ただ、個々の投資家の利益以上に支払われた分は、税金がかからない「元本払戻金(特別分配金)」として扱われます。つまり、投資信託から自分の口座に資金が戻ってきただけであり、特段の損失も発生していない状態です。

「分配金が出ている=儲かっている」と誤解をする人もいるため、「当期の収益からだけ分配金を支払うべきだ」と言う人もいれば、「分配金の安定性が高まる方がいい」と言う人もいます。それでも、投資家一人一人にあわせた分配金のカスタマイズができない以上は、「分配金は元本の一部解約と同じ」というリテラシーを持つことが、分配型ファンドと付き合う上で大切になります。