別れよう

「別れよう。もう、清志の何も信じられない」

「は? え? ちょっと待ってよ」

「待たないよ。待たない。もう待ってなんていられないよ」

葵はゆっくりと息を吸って、さらにゆっくりと吐いた。ずっと拳を握りしめていたことに気がついた。

「……インストールしたのはごめん。会ったのもごめん」

「うん。でももういいよ。私には関係ないことだから」

思いつくかぎり、強い言葉を選んだ。傷ついてなどいない。そういう姿を最後に見せつけてやりたかった。

「本当に、もうどうにもならないの?」

「ならないよ。清志はそれだけのことをしたんだよ。信じてたのに、裏切ったの」

清志はまた黙り込んだ。きっと取り付く島を探しているのだろう。だけどもう、何を言われても、何をされても無理だった。1度壊れてしまったものはもう直らない。たとえ強引に直しても、直した部分を見つめ続けなければいけなくなる。

「分かったよ」

「うん、分かってもらえてよかった。それじゃあ、私帰るね」

葵は荷物をまとめ始めた。荷物をまとめていると、これで終わりかという感慨が湧くと同時に、思いのほかダメージを追っていない自分に気が付くことができた。ひょっとすると、もうとっくに恋愛感情なんてものはなくなっていたのかもしれない。

抜け殻みたいな気持ちを過ごした時間という重みで抑えつけていただけなのかもしれない。泊まることも多かったので下着や洋服は清志の家にも置いてあったが、あとで適当に捨ててもらえばいいかと思った。