姉と思い出話をして

「お母さん、昔よくやってたよね。編み物。飽きたのかいつの間にか見なくなったなって思ってたけど、まだ捨ててなかったんだ」

「やってた。私、お気に入りだったな。お母さんが作ってくれたセーター。服はだいたいお姉ちゃんのおさがりだったから、自分だけの服なのが嬉しくてさ」

「そうそう。仁美、ほぼ毎日着てたよね。冬が終わって衣替えするよって言っても、お母さんのセーター着るって聞かなくて」

「そんな意味不明な駄々こねてないよ」

「こねてたよ。お母さん、春用のセーター作らされててかわいそうだったもん」

「えー、そうだっけ? でも懐かしいね。お母さんに教えてもらいながら、一緒に編んだりしたよね」

「あぁ、したかも。仁美、手先器用だから、するする編めててすごかったよね」

「手先だけはね。唯一お姉ちゃんに勝てそうなの、図工だったもん」

不意に見つけた毛糸から、姉妹の、あるいは母娘の思い出が次から次へと引き出されていった。けれど話せば話すほど、それはどれももう手には入らない過去の出来事だということを、もう母がこの世にはいないということを痛感させられた。

「お母さん、ちゃんと幸せだったかな」

「さあ、どうだろうね」

思わず呟いてしまった感傷的な一言に対する暁美の返事は思いのほかドライだった。

「少なくとも、あんたのこと心配はしてるんじゃない? お母さん、このままじゃ成仏できないって」

暁美は立ち上がると「この段ボールちゃんとしまっておきなさいよ」と言って、帰り支度を始めた。泊まっていかないのかと訊ねると、「当たり前でしょ。旦那も子供もいるんだから」と薄く笑って帰っていった。

広い家のなかに、仁美だけが取り残されていた。小さく息を吐いたとき、ふと毛糸の入った段ボール箱が目に入った。