遺品整理で出てきたもの

葬儀の翌日、母の遺品を整理しに訪れた暁美は、寝巻き姿のまま出迎えた仁美に眉をひそめている。

9つ上の暁美は、仁美にとってあこがれの姉だ。勉強もできたし、はきはきと喋るし、年をとって多少愚痴っぽくはなったが、それでもやはり年の離れた頼りになるお姉ちゃんという感はぬぐえず、小さい時から抱いている羨望は変わらない。

だが今はその頼りがいが鬱陶しくも思える。暁美は正しい。そんなことは分かっている。このままじゃいけないことも分かっている。仁美はいつまでも子供じゃないと反抗したくなるものの、引きこもりなんて子供以下でしょと反論されるのが目に見えるから、下唇をぎゅっと噛んで口をつぐんでおく。

「バイトでも何でもいいからさ、ちゃんと社会復帰しなさいよ」

口をつぐんでいたためにすぐに返事をできずにいると、暁美は深いため息を吐いた。

暁美の手際の良さもあり、母の遺品整理はあっという間に片付いていった。仁美は言われた通りに戸棚を拭いたり、古くなった洋服を捨てたりしていただけだが、久しぶりに身体を動かしたおかげで、終わりが見えるころにはぐったりと疲れていた。

「仁美、この段ボール何?」

居間の隅にぽつんと残されていた段ボール箱を目ざとく見つけた暁美が仁美に声をかけてくる。さっき押し入れのなかに戻しておくように言われていた段ボールだったが、すっかり忘れていた。

ミスったなぁと、ダイニングの椅子に座ったままぼんやり考えていると、段ボール箱のふたを開いた暁美が「うわぁ」と声をあげた。

「懐かしい。毛糸だ」

続いて引っ張り出されたのは編みかけのマフラーらしき何かで、段ボール箱のなかには赤や青や紫、黄色、白、オレンジ、緑……などなど、色とりどりの毛糸がぎっしり詰め込まれていた。