分配金は必ずしも「利益から」出ているわけではないのが盲点
では、毎月分配型投資信託は、運用商品として優れた特性を持っているのでしょうか。
かつて毎月分配型と言えば、国内外の債券に組み入れるタイプが中心でした。しかし近年では、海外株式を主要投資対象としたうえで、毎月分配を行うタイプが人気を集めています。
あるファンドを例に考えてみましょう。
このファンドはMSCIワールドインデックスをベンチマークにしたアクティブファンドで、新興国を除く世界中の株式に分散投資します。為替ヘッジをしないタイプの毎月の分配金は、1万口あたり150円です。それも、直近の運用報告書で確認できる、過去30期分がすべて150円なのです。結果、年間の収益分配金合計額は1800円になり、これを2024年1月23日の基準価額である9146円で買ったとすると、分配金の利回りは19.68%にもなります。
「いや、凄い。こんな利回りで運用できるなら、もう老後の生活は安泰だ」と思った人は、ほぼ間違いなく、数年後に後悔するはずです。
よく考えてみて下さい。皆さんは、収益分配金の主な原資は、基本的に前回決算の翌営業日から今決算日までの運用で得られた株式の配当金、債券の利金、それぞれのキャピタルゲイン、ならびに海外資産で運用するファンドなら為替差益だと思っていませんか。これが大きな誤解です。
もしそうだとしたら、株式などという値動きの不安定なものを組み入れて運用しているのに、どうして毎月の分配金が一定なのでしょうか。
運用報告書に記載されている「分配原資の内訳」に、この謎の答えが書いてあります。
当期分配金150円のうち、当期の収益が「ー」で示されている期があります。これは、当期の運用で収益が得られなかったか、もしくはマイナスだったことを示しています。この期の分配金は、「当期の収益以外」で150円が支払われています。当期の収益が9円の期には、当期の収益以外で140円、当期の収益が99円の時は、当期の収益以外が50円だったりもします。ちなみに必ずしも150円にならないのは、小数点以下の処理の関係であるとされています。
つまり当期の収益で150円の分配金が払えない時は、当期の収益以外で賄われていることになります。
では、「当期の収益以外」とは何なのでしょうか。
2つあります。「分配準備積立金」と「収益調整金」がそれです。
分配準備積立金は、分配されずにファンド内に留保された収益の設定来の累積であり、収益調整金は追加設定時に既存の受益者が本来受け取るべき分配金額が希薄化されてしまうのを防ぐために設けられた勘定のことです。
それぞれの中身を細かく説明すると、かなりややこしくなるので、いずれも現在の基準価額に含まれている過去からの収益金と考えて下さい。
つまり、「当期の収益以外」の部分から分配金の多くが支払われ続けると、たとえファンドの組入資産が値上がりしたとしても、基準価額には絶えず下落圧力がかかることになります。
ちなみに同ファンドの場合、ベンチマークであるMSCIワールドインデックスは、2022年7月25日から2024年12月23日までの間に約64%上昇している一方、分配金を支払った後の基準価額の上昇率は4.03%です。もちろん30期分の分配金を加味した基準価額で計算すると、54.71%の上昇率にはなりますが、残念ながらそれでもベンチマークには約10%近く負けています。
良いか悪いかはともかくとして、毎月分配型投資信託にはこういう特性を持ったものが多いということを、利用者は理解しておかなければなりません。
そして、最後に取って付けたような話で恐縮ですが、プラチナNISAで検討されているスイッチングは賛成です。できればプラチナNISAだけでなく、すべてのNISA口座開設者に、スイッチングを提供してもらいたいと思います。