子供と仕事に手一杯だった過去
永沢さんに「子育ても終えて、仕事も定年まで勤め上げて偉いわね」と持ち上げられても、「ずっと事務仕事しかしていないし、子供と仕事に手一杯で、年の割に人生経験もお金の知識もないの」と言うしかありませんでした。自嘲ではなく、10年ほど前まで貿易事務の専任は私しかいなかったのでそれなりの負担があったし、社会人になった長女は中学時代にいじめで一時引きこもりになるなど、子育ても結構大変だったのです。
そんな私に永沢さんは、自分も短大卒で金融機関に一般職で入社し、総合職との扱いの差に愕然としたという思い出話をしてくれました。そこで27歳で一念発起してFP資格を取得し、先にFPとして活動していた先輩の後を追って30歳で独立したのだとか。
おっとりした外見に反し、いざという時の並外れた行動力や周囲を巻き込む力は、話を聞いているだけでもよく分かりました。同い年の私からすれば、アグレッシブに仕事の幅を広げてきた永沢さんが、ちょっぴりうらやましくもありました。
ポジティブ思考で金融の知識や経験も豊かな永沢さんとの面談は、私にとって大変実りあるものでした。
身の丈に合った資産運用を考えられるように
コロナ禍以降に積み立て投資長者になった夫に負けたくないと退職金で株式投資をしたいと考えていた私に対し、永沢さんは「夏目さんは預けたお金が半分になっても耐えられる?」「お子さんは独立したし、あと5年もすればそれなりの年金も出る。海外旅行に行きたいとか、いい着物が欲しいとか大きなお金を使う予定はあるの?」と尋ねてきました。そして最後にこう問いかけたのです。
「本当に投資が必要だと思う?」
残念ながら、その問いに確信を持って「イエス」と答えることはできませんでした。もともと投資の経験などほとんどないし、それでも投資をしなければと考えたのは、夫への対抗心や、これだけ投資が普及してきた中で自分だけ置き去りにされていることへの焦燥感によるところが大きかったように思います。
そんな私の複雑な心中を察してか、永沢さんは「金利が上昇してきているから債券も面白いと思うよ」と国債をベースとした債券投資を勧め、さらに、株式投資は「損をしても耐えられる範囲のスモールスタートにしておくのが無難」とNISA(少額投資非課税制度)口座を活用した月額1万円の積み立てを提案してくれました。
言い方は悪いかもしれませんが、確かにそのあたりが私の「身の丈に合った資産運用」なのではないかと思いました。