株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、下町の甘味処で抹茶を飲みながら投資談義を行っています。
T:第2次トランプ政権が発足しましたが、その後の市場動向はどうでしょうか?
神様:「アメリカ・ファースト」を宣言したトランプ大統領は、2月からカナダとメキシコからの輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の関税を課すことを協議していると表明しました。しかし、一方で全世界一律の追加関税については踏み込んだ内容はありませんでした。株式市場では、関税強化についての過度な懸念が払しょくされ、買い安心感につながったようです。トランプ大統領による高関税制政策の見通しはまだ見えないものの、米国景気の堅調さもあり現在のところ落ち着いた状況であると言えるでしょう。
T:引き続き、今後も注目ですね。
神様:さて、今日は「今後の電力需要」について見ていきましょう。AIの活用や半導体工場の新設・稼働により、今後の電力需要は世界的に増加していく見込みです。日本でも、情報通信の高度化や製造現場の国内回帰もあり、電力需要は緩やかな回復が見込まれます。電力広域的運営推進機関によると、2025年度の需要電力量合計は8,085億kWhと想定されていますが、2034年度には8,524億kWhまで拡大する見込みです。
T:日本の場合、少子高齢化による人口減少や節電・省エネの影響は大きいと思うのですが、それでも電力需要は増加傾向なのですね。
神様:おっしゃる通り、家庭では省エネ意識が高い状態が続いています。日本の電力消費量は戦後一貫して伸びてきましたが、東日本大震災の2011年ごろからは、企業や家庭での節電努力により伸びは鈍化しています。電力広域的運営推進機関の想定では、2025年度の「家庭用その他」の需要電力量は2,922億kWhですが、2034年度では2,778億kWhまで下がると予測しています。また、「業務用」の需要電力量を見ると、2025年度は1,939億kWh想定であり、2034年度は1,946億kWhと、ほぼ横ばいの予測です。
T:家庭用や業務用というのは、電力の区分のことですか?
神様:その通りです。「家庭用その他」は主に契約電力50kW未満の低圧電力を指しています。「業務用」は高圧など主に法人向けの電力です。そして、「産業用その他」は工場などの大規模な施設で使われる電力となります。
T:業務用で需要が横ばいなのはなぜでしょうか?
神様:経済成長によって需要が増加していく一方で、節電・省エネによる需要減少があり、増加と減少が拮抗していると考えられます。
T:なるほど。
神様:その一方で、大きく拡大する想定であるのが「産業用」です。冒頭でもお伝えしましたが、AIの活用を中心としたデジタルインフラの要であるデータセンターや半導体工場の新増設が需要電力量を伸ばし、家庭用の減少を補う見込みです。その拡大規模は、2025年度から2034年度にかけて実に10倍を超える規模と想定されています。また、鉄鋼業では脱炭素化に向けた生産プロセスの転換として「電炉化」が検討されており、こちらも電力需要の増加が見込まれます。
T:電力需要の増加要因はデータセンターや半導体工場だけではない、ということですね。ところで国内のデータセンターは、全国に隈なく配置されているものでしょうか?
神様:現在日本には、サーバーの面積で約150万平方メートル、東京ドーム約30個分のデータセンターが存在していると言われています。その8割は東京・大阪に集中しています。今後新増設されるデータセンターは北海道から九州まで幅広く配置される予定ではありますが、今後もその傾向は続くでしょう。
T:データセンターに行くための交通の利便性も考えると、大都市圏に集中するのは理解できます。一方で北海道や九州では半導体工場も新たに稼働しますし、データセンターの誘致によって新たな経済活性化も期待できそうですね。
神様:おっしゃる通りです。逆に言えば、データセンターや半導体工場が新設された地域では、これまで以上の電力供給が求められることになります。供給能力の向上のためには、既存の発電施設の効率的な運営や原子力発電所の稼働などが必要でしょう。電力を消費する施設自体の省エネ化も必要です。電力供給を担う電力会社、電力の効率運営を支援するサービスを手掛ける企業や施設の施工、メンテナンスなどを担うサポート企業などの活躍が期待できそうです。