FIRE(Financial Independent Retire Early)という言葉を聞く機会が増えている。十分な資産を築くことで「働く必要がない生活」を実現し、早期リタイアするという考え方だが、本当にそれで安定した幸福を得られるのだろうか。

FIREの前提条件は変化し、不安は消えない

FIREに必要とされる金額は、多くの場合「年間生活費×25年分」などを基準に、想定利回りや物価上昇率などを考慮して算出される。具体的には、「年利○%で運用する」「年間の生活費はこれくらい」といった複数の前提を組み合わせるわけだ。

しかし、運用成績やインフレ率は常に変動するため、想定した利回りを確保できなかったり、物価が想定以上に上昇して実質の生活費が増えたり、税負担が増したりすると当初の計画が十分に機能しなくなる可能性がある。

これは、数年前に話題になった「老後2,000万円問題」とも似通っている。その試算も、運用利回りや物価上昇率など、いくつもの前提を組み合わせて導き出されたものだが、「2,000万円では足りない」という意見から「そこまで大きな数字ではない」という見解まで、さまざまな議論が繰り広げられた。将来の生活を「これで安心」と言い切るのは難しいのだ。

また、仮に「これだけあれば働かなくても生きていける」と判断できる資産を築けたとしても、将来的な医療費や家族のケアなど、想定外の大きな支出が発生する可能性もある。お金が増えることで新たな悩みが生じることもあるだろう。従ってライフステージや経済状況の変化に合わせて、継続的に資産運用を見直していく姿勢は求められるだろう。