24年日銀政策の評価は
問題は植田総裁が「緩和の状態を調整していく」という言い方をした点にあります。これは、マイナス幅を少しずつゼロに向けて小さくしていく、そのために利上げをしていくと言っているということを意味します。
そうした中で「どこまで日本の利上げは続くのだ」という疑問が湧くのは当然かと思います。
政策金利(あるべき金利水準)または中立金利は、潜在成長率とインフレ率を足したものです。
潜在成長率は推計の仕方によって幅を持って出てくるもので、日本の場合はマイナス1%から0.5%ほど。このくらいの幅を持って見られています。
インフレ率は目標が2%です。
これらを足し合わせると、日本の政策金利は1%から最大で2.5%くらいの幅になる。つまりは、この水準に合わせて利上げが進んでいくと考えられます。
実際に昨年9月に日銀の田村直樹政策員会審議委員は講演で「日本の政策金利はどんなに低く見積もっても1%ほどまでは上げていく」といった趣旨の発言をしています。
田村審議員発言の詳細については図にまとめております。赤字箇所が要点ですので、興味のある方は読んでみてください。
話を戻すと、今の金利は0.5%ですが、1%程度までは年内、あるいは年度内にあたる来年の3月までには到達する。つまり、あと2回は利上げがあると考えられます。
ただ、2.5%となると、かなり別の水準です。そこまで利上げをするとは私自身は考えていません。けれども、インフレがある程度続くようであれば、1.25%までは利上げをする。少なくとも1%台前半までの利上げは進んでも、まったくおかしくない状況です。
日銀の利上げに対するメディアの扱いを見てみると、日本の景気があまりよくない、つまり消費が低迷しているのに利上げをするのはけしからん、といった論調を目にします。
ですが、そういった論調はおそらく因果関係が間違っているのではないかと私は考えています。つまり、景気が良くないのに利上げをしてはいけないのではなく、日銀が利上げをやらな過ぎている結果、日本経済にマイナスが起こっているのではないかと私は見ています。
グラフは2024年1月と12月のインフレ率を比べたものです。水色は1月各国のインフレ率、紺色が12月のインフレ率です。赤は1月と12月の変化の度合いを示しています。
どの国も金融政策をしっかりと進めました。その結果インフレは抑制されており、いずれも1月に比べて12月はインフレ率が低くなっています。
けれども日本はそうなっていません。12月に向けてむしろインフレ率は加速しています。ドル指数を構成している6か国とアメリカを加えた7つで比較すると、インフレ率が加速しているのは日本だけです。
中央銀行は物価の安定を目標に金融政策を決定しています。その観点で日銀を評価するとすれば、24年の日銀の政策は不合格という点をつけても良いでしょう。
唯一日本の金融政策が正当化されるとすれば、日本人の中で30年間かけて凝り固まった「デフレマインド」をぶっ壊すために、つまり日銀は意図的に異常な緩和的政策を続けインフレを加速させ、結果的に過度な円安を容認して、輸入インフレを起点にインフレを長引かせてデフレマインドを打ち壊そうとしている。
このような考えであれば、24年の日銀の政策にも理解できる点はあります。ですが、ここまで見ていただいた通り、世界的に見て昨年インフレが加速した国は珍しい。この点は是非お伝えしたいと思います。
日銀の政策に関してはもう一つ疑問に思う点があります。日銀は1月と4月、7月と10月、合計4回いわゆる「展望レポート」を出し、物価の展望について発表しています。
前回10月時点では2025年末のインフレ率は1.9%になる見通しでした。しかし、そこからわずか3カ月後の2025年1月に発表された展望レポートでは2.4%、つまり、0.5 %もインフレ率が高くなる形でまとめられています。
現在の経済情勢は複雑です。FRBの見通しもほぼ当たったためしがありません。とはいえ、インフレ率の見通しを3カ月で一気に0.5%も上方修正なければいけない状況は、金融政策がかなり遅れ気味になっていることを示唆しているのではないかと、私は思っています。
結局利上げをあまりしないことによって、日本は異常な円安に見舞われ、輸入インフレが加速、賃上げがインフレに追い付かず実質金利がマイナスに。そして、消費が力強さを欠く状態にもなっているのではないでしょうか。
因果関係は「景気が悪いのに利上げをするのはおかしい」ではなく、必要最低限の利上げをしないことによる円安と輸入インフレにより、実質賃金の前年割れ、購買力の低下が起こっている。ということだろうと思います。
ですから、次の利上げが年の前半にあってもおかしくはありません。ただ、夏には参議院選挙がありますし、アメリカの政策は読みにくいところがあり、次の利上げの時期は日銀の裁量にゆだねられている。予想は難しい状況です。