介護保険制度がスタートしたのは2000年。介護保険は、時代に合わせ、3年ごとに改正を続けています。しかし、知らなければ受けられないサポートもあります。
介護事業を運営する株式会社アテンド代表の河北美紀氏は、最後まで自分らしい生き方を追及するために、介護保険などの公的保障制度を正しく活用する大切さを説いています。
そこで豊富な相談例から「介護破産」の怖さ、そして対処方法を河北氏に紹介してもらいます。(全3回の3回目)
●第2回:子どもに財布を握られて、病院にも行けない老夫婦。「経済的虐待」を防ぐための「無料の相談窓口」は?
※本稿は、河北美紀著『介護のプロだけが知っている! 介護でもらえる「お金」と「保障」がすらすらわかるノート』(実務教育出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
要介護3のNさんはなぜ生活苦に陥った?
要介護3のNさん(77歳男性)は、79歳の妻と都内で2人暮らしをしています。サラリーマンだったNさんは、若い頃からお酒と人づき合いが好きでした。飲み代や、人から誘われれば競馬やマージャンなどにお金を使い、奥様に渡す家計費はいつもギリギリで苦労をかけたそう。
そんなNさんも定年を迎え、年金生活に。飲み歩くこともなくなり、「ようやく夫も落ち着いてくれた」と妻が安堵したのもつかの間、突然Nさんは脳梗塞で倒れて救急搬送されてしまったのです。
幸い命に別状はなかったものの、左半身麻痺と重い障がいが残り要介護4に。リハビリを行いましたが、自宅では何度も転倒を繰り返しました。一方、年金暮らしの家計は、利用限度額いっぱいに介護サービスを利用するため苦しくなるばかり。加えて糖尿病持ちのNさんは、定期的な通院も欠かせません。
それまでは穏やかだった夫婦関係も、金銭的な不安から徐々に笑顔が消え、次第にケンカが絶えなくなりました。しかし妻の介護なしには生きられないNさんは言いたいことも言えず、ぐっと我慢する日々が続いていました。そんなある日、とうとう妻が限界を迎える瞬間がやってきます。「あなたのせいで何もできない! 私だって、あなたみたいに飲みに行ったり遊びに行ったりしたかったわよ!」とNさんを責めたのです。
これを聞いたNさんは、「俺はもうデイサービスも病院も行かない。お前の好きにしたらいい」と言って、本当にデイサービスも通院もやめてしまったのです。Nさん夫婦を心配したケアマネジャーが自宅を訪問しても、「自宅で過ごすからいい」の一点張り。その後も電話で様子をうかがっていましたが、Nさんは数カ月後に亡くなりました。生活苦と介護放棄によるものと思われます。