介護保険制度がスタートしたのは2000年。介護保険は、時代に合わせ、3年ごとに改正を続けています。しかし、知らなければ受けられないサポートもあります。

介護事業を運営する株式会社アテンド代表の河北美紀氏は、最後まで自分らしい生き方を追及するために、介護保険などの公的保障制度を正しく活用する大切さを説いています。

そこで豊富な相談例から「介護破産」の怖さ、そして対処方法を河北氏に紹介してもらいます。(全3回の2回目)

●第1回:【介護破産はこうして起こる】裕福な生活ができると思っていたのに…年金額の勘違いで80代女性が陥った大誤算

※本稿は、河北美紀著『介護のプロだけが知っている! 介護でもらえる「お金」と「保障」がすらすらわかるノート』(実務教育出版)の一部を抜粋・再編集したものです。

夫婦共に要介護認定を受けている老老介護のEさん夫妻

都内在住のYさん夫妻(夫94歳、妻92歳)。子どもは長女次女の二人ですが、それぞれ所帯を持ち今は夫婦二人暮らしです。ご夫婦共に要介護認定を受けており、夫は要支援2、妻は要介護1で認知症があります。妻は数時間前のことは覚えていない、外出したら帰れない、同じ話を繰り返すなどの症状があり、それを94歳の夫がサポートするといういわゆる「老老介護」の世帯でした。

夫は辛抱強く妻を見守り、近所のデイサービスにも仲良く一緒に通う姿も見られていました。

「通院したい」という親の意向、長女は認めず

そんなある日、夫婦でデイサービスに行った際、夫がデイサービスの職員にこんなことを言いました。

「本当は妻を病院に連れて行きたいんだけど、前に外で転んだから外へ出るなって長女に言われているんだ。でも、長女も忙しいみたいでなかなか病院に付き添えないみたいだから、お宅のデイサービスの車で病院に連れて行ってもらえないかな?」というのです。

また、妻には糖尿病があり、放置したことで最近ますます視力が低下したようだと心配していました。妻があまりにも「見えない見えない」というので市販の目薬を使わせているらしく、これを放置しては危険な状況だと判断した介護職員は、すぐにケアマネジャーへ連絡をしました。

この話を聞いたケアマネジャーも、すぐに通院介助が受けられるよう話を進めてくれたのですが、その話を聞きつけた長女は「両親に病院へ行くお金はないです。介護サービスも、勝手に増やされても困るので待って下さい」と言ってきたのです。

定期預金や保険を解約すればお金はあるはず、ところが…

困ったケアマネジャーは、Yさん夫妻に確認しました。

「長女さんが、病院にいくお金も追加の介護サービスのお金もないっていっているんだけど、実際はどうかしら?」と聞くと、夫は「いや、1年前に俺の預金200万円を解約して長女に渡したから、お金はあるはずだよ」と答えました。そして「お金のことは、長女に任せてるから」とも言ったのです。

この時ケアマネジャーは、両親にはお金があるにも拘らず通院させない、介護サービスを利用させない長女の行為は、高齢者虐待の一つである「金銭的虐待」に該当するかもしれないと感じました。

これはチームで話し合いにあたった方がいいと考えたケアマネジャーは、地域包括支援センターへ連絡。Yさん夫婦と長女次女を交え話し合いの場を持つことにしました。ところが、話し合いに出席予定だった長女は直前で「用事がある」と言って欠席。仕方なく、当日はキーパーソンの長女抜きで話し合いが始まりました。