「オルタナティブ投資 発展の歴史」と題し、全10回にわたって解説していきます(下図)。第9回はリアルアセットの再評価をテーマに、前後編の2回に分けて取り上げます。

 

後編ではまず天然資源について取り上げます。

特徴な例として、森林投資の発展を見てみます。米国では、かつて製材・製紙会社が森林を保有し製品化する垂直型の事業を行うのが普通でした。1980年代の税制改革や金融規制の見直しによって森林を保有するインセンティブが低下し、従来融資を行ってきた生保や銀行がTIMOと呼ばれる森林投資管理組織を作り長期投資家である年金等へファンド提供を始めたようです。1992年に第1号のTIMOが設立されています。

下図左を見ると、企業の保有とファンドの保有比率が2005年に逆転していることがわかります。REIT自体は1960年にできていますが、投資対象が限定されており、1998年の改正によって森林への投資が可能となりました。従来MLPとして運用されてきたプラムクリークという森林ファンドが1999年に森林REITに転換したのが最初だと言われています。

下図右では、TIMOを中心とする運用規模の拡大に伴い、REITも普及していることがうかがえます。そして投資対象国も1980年代の北米から始まり、1990年代はニュージーランド、2000年代はオーストラリアやチリ、ブラジル、世界金融危機後はマレーシアなどのアジアへと広がってきています。

 

農地投資ファンドの発展にも特徴的な背景があります。米国では従来、農業や牧畜を営む農業主に対し、生保が中心となって貸付を行っていました。投資商品としては、1977年にシカゴの銀行が年金向けに提案した農地ファンドが始まりのようですが、当時はお金が集らなかったようです。その後1980年代にコモディティ価格が下落する中で農地投資も進まなくなり、1981年に生保系運用会社が農地や森林を含めたファンドを設定したのが年金向けファンドの初案件となりました。

そして1988年、モルガンスタンレーアセットマネジメントのバートン・ビッグスが「Buy a Firm, Get Rich Slowly」とうたったキャンペーンが話題となり、個人向け投資組合が脚光を浴びるようになりました。その後は1996年にオープンエンド型の農地ファンド、2003年には農地投資を行うF-REITが上場、2006年にはオープンエンド型私募REITが設定されました。

下図は世界の農地ファンド数の推移です。農地ファンドも米国から始まり、各国に拡大しています。

投資家としては森林同様、年金などの長期投資家が主要な投資家です。日本においても、一部の年金が農地投資を行っています。一方で、SDGsの観点からの投資が活発化しており、2018年に日本生命、2022年に第一生命と住友生命、2023年には上智学院が農地ファンドへの投資を行ったとの報道がありました。

 

インフラ、森林、農地と言った投資対象は、ESGと非常に相性が良いとも言えます。下図左は世界のインパクト運用投資額の推移で、2017年以降に急激な資産成長になっています。

下図右はインパクト投資における投資先資産額比率です。最も多いのがエネルギーで、3番目に森林、4番目に食料・農業と続いており、天然資源への期待が高まっています。

 

最後にリアルアセット投資の投資家事例として、CalPERSのリアルアセット・プログラムを見てみます。

リアルアセットへの投資はインカムをリターンの主要因とし、安定的、予測可能なキャッシュイールド、株式リスクの分散、インフレ対策を投資目的としています。政策配分としては全体の15%±5%としています。プログラム全体の金額は712億ドルで、うち不動産が568億ドル、インフラに141億ドルです。実際の配分は下図右のグラフで、不動産約80%、インフラ約20%、森林0.5%です。リアルアセット内で、種別や投資スタイルといった多層的な分散投資が行われています。

 

第9回のまとめ

・従前より不動産は投資対象として捉えられてはいましたが、投資規模や流動性、透明性の課題から機関投資家等への広がりが限定的でした。しかし証券化によって再評価され、法整備も進み、インデックスの開発によってファンド投資も拡大しました。さらに、不動産セキュリティトークンといった最先端な投資手法へと発展してきています。

・インフラや天然資源は生い立ちがそれぞれ異なり、いまだ発展途上にあると思います。インフラはPFI/PPPから発展、森林は税制改革等による企業保有からの撤退からファンドへの移転が市場拡大を促し、農地投資は運用機関の介在による農業ビジネスの効率化や技術革新が成長のエンジンとなっています。

・インフレ環境やSDGs志向の高まりなどにより、リアルアセットへの期待は急拡大傾向にあります。