「103万円の壁」はインフレ具合に見合っていない状況

課税最低限を178万円にするかどうかはともかく、現在103万円のそれを見直す時期には来ているようです。

なぜならここ数年でインフレが進んだからです。

前述したように、課税最低限の103万円は、48万円の基礎控除と、55万円の給与所得控除を合わせた額です。給与所得控除とは、自営業者のように収入から経費を差し引くことのできない給与所得者にも、一定額までの経費を認めるために設けられているもので、給与収入が年162万5000円以下の場合、55万円をそこから差し引くことができます。

また、基礎控除は納税者本人や配偶者、扶養家族の生活維持のために必要な最低限の収入には課税しないという目的で設けられており、その額が48万円とされています。

ちなみに基礎控除が48万円とされたのは2020年のことで、それ以前を見ると、1995年は38万円、1989年は35万円でした。この見直しは物価上昇との見合いによるものですが、これに給与所得控除を合わせた課税最低限は、1995年から変わっていません。なぜなら、2020年に基礎控除が10万円引き上げられたのと同時に、給与所得控除が10万円引き下げられ、プラスマイナスでゼロだったからです。

それでも1995年から2020年まではデフレ経済だったので、特に問題はありませんでしたが、2020年1月から2024年9月までの消費者物価指数を見ると、生鮮食品を除く総合で7.66%上昇しています。生活維持のために必要な最低限の収入には課税しないという基礎控除や、給与所得者の経費である給与所得控除の意味合いからすれば、インフレ率をカバーできる分の引き上げが必要なのは事実です。

一気に178万円まで引き上げられるかについては疑問符

ただ、課税最低限を178万円まで引き上げられるのかどうかは、財源の問題もあり難航しそうではあります。そこまで課税最低限を引き上げた場合、税収は7.3兆円も減ると試算されています。

国民民主党はその財源を「使い残しの予算が昨年で7兆円、一昨年は11兆円もある」から、それを充てればよいという認識のようですが、毎年これだけの使い残しが生じる保証はありません。

それに、日本は毎年多額の赤字国債を発行しており、「使い残しの予算」といっても、金庫にお金が余っているのとはワケが違います。その意味において、課税最低限を178万円まで引き上げるのは現実的ではなく、仮に引き上げられるとしても、もっと現実的な数字になると思われます。