売上がコロナ禍前の水準まで回復していない現実も…
株式に投資する以上、気になるのは現在、東京地下鉄が置かれている事業環境と、それに伴う業績推移でしょう。
これは東京地下鉄のサイトに掲載されているので、それを参考にしてみましょう。「企業情報」のなかに「財務情報」という項目があります。そこに決算報告書や有価証券報告書が掲載されており、過去の貸借対照表や損益計算書といった財務諸表を見ることができます。
直近は第20期(2024年3月)決算になります。いくつか重要と思われる項目を見ていきましょう。
まず業績推移です。第20期の有価証券報告書には、2020年3月期から2024年3月期までの5期分の連結決算数字が掲載されています。
それによると、2020年3月期の営業収益(売上に該当します)は4331億4700万円。その後、コロナ禍による移動制限が行われた結果、翌年2021年3月期の営業収益は2957億2900万円まで落ち込みました。ちなみに同決算年度における経常損益は、476億8900万円の赤字。人流の制限が、東京地下鉄の業績にとって大きな影響を及ぼすことが見てとれます。
そして2024年3月期の営業収益は、3892億6700万円まで回復しています。経常損益も658億6600万円まで回復していますが、この時点において営業収益が、コロナ禍前の2020年3月期のそれを上回っていません。経済活動そのものは正常化したものの、東京地下鉄の売上自体は、まだコロナ禍前の水準まで回復していないのが現実です。
なぜ営業収益がコロナ禍前の水準に戻らないのでしょうか。人流についてはポジティブな材料とネガティブな材料があります。
ポジティブな材料は、やはりインバウンド観光客の増加でしょう。訪日外客数を年別に見ると、
2019年・・・・・・3188万2049人
2020年・・・・・・411万5828人
2021年・・・・・・24万5862人
2022年・・・・・・383万2110人
2023年・・・・・・2506万6350人
2024年・・・・・・2107万5024人(7月末時点)
2024年については7月時点で毎月平均約300万人が日本を訪れているので、残り5カ月間を平均値で見れば、ここから1500万人を積み増す可能性があります。すると、2024年の訪日外客数は推計3600万人を超え、コロナ禍前の2019年の数を大きく上回り、統計を取り始めて最高値になることが期待されます。
ただし、すべてのインバウンド観光客が東京メトロを移動手段に選ぶとは限りません。東京は通過点に過ぎず、地方に向かう観光客も大勢いるでしょう。インバウンド観光客の増加は東京地下鉄にとってポジティブな材料ですが、全員が東京メトロを頻繁に使うとは限らない点には、留意しておく必要があります。
一方、ネガティブな材料は、コロナ禍の影響で、特に都心で働くビジネスパースンに行動変容が生じている可能性があることです。一時期に比べてテレワーカーの割合が減ったとはいえ、その水準はコロナ禍前に比べてかなり高い水準にあります。
国土交通省が行っている「テレワーク人口実態調査」の令和5年版によると、雇用型就業者のうちテレワークをしたことのある「雇用型テレワーカー」の割合は、42.3%でピークをつけた2021年に比べれば低下したものの、それでも2023年で38.1%もあります。テレワークの定着は、公共交通機関の売上にとってはネガティブ材料であり、これは東京地下鉄にとっても例外ではありません。
当面、インバウンド観光客増というポジティブ材料と、テレワーク定着に伴う通勤客減というネガティブ材料の綱引きが、東京地下鉄の営業収益に影響を及ぼすことになりそうです。